続・泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた2

11話 後編

 俺の腕の上に頭を乗せて寝息を立てている幸希の顔を、俺は飽きもせずにジッと見つめている。
 幸希は疲れてしまったのか、行為が終わるとすぐに寝てしまった。
 
 俺は幸希の胸元に付けたキスマークを見る。
 彼女は、俺のものだという証――。
 柄にもなくガキみたいなことをしたと、俺は反省している。
 俺は後で謝ったが、幸希は「気にしないで」と言っていた。
 
 幸希のほうから積極的に誘ってきたのは初めてだったので、あの時俺は思わず面食らった。

 ――あいつは極悪非道なヤクザなんだ。どうせ、お前の身体が目当てなだけだ。

 あの言葉を聞いた時、俺は不安になった。
 大貴の言葉を真に受けた幸希が、俺の元から離れて行ってしまうのではないかと思ったのだ。
 確かに俺たちの関係は(はた)から見れば、ヤクザが借金を肩代わりする代わりに、女に愛人契約を結ばせたように感じるだろう。
 だけど、俺は本当に幸希のことを愛している。
 身体だけじゃない。心も、言葉も、仕草も、幸希の何もかも全てを愛おしいと思っている。
 だから、俺が幸希のことを食い物にしていると、彼女に誤解されたくなかった。そして、彼女を失いたくなかった。

 俺の不安は幸希にも伝わっていたようで、彼女に要らぬ心配をさせてしまった。
 幸希と一緒にいると、俺はとことん幼稚で情けない男だと痛感させられる。
 しかし、彼女になら、俺はどんな情けない姿もさらけ出したって構わないと思える。

 目の前で気持ち良さそうに寝息を立てている幸希を見つめていると、俺は無意識のうちに彼女の頬を撫でていた。
 すると、幸希は眉間にしわを寄せながら「んんっ」と唸る。
 しまった。起こしたか。
 俺は咄嗟に手を引っ込めた。
 しかし、幸希は目を開けることもなく、俺の二の腕に頬を擦り付けると、再び寝息を立て始める。
 その様子を見た俺は、安堵のため息を吐いた。

 こんな無防備な姿、俺以外の前で晒さないでくれよ。
 俺はそう願いながら、幸希を胸に抱いたまま、眠りについた。
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