続・泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた2
 その日の営業は、何とか無事に終えることができた。
 正直、開店準備の時は不安のほうが大きかったが、常連客たちの顔を見るとその不安は和らいでいった。
 昼間には和住さん、夕方には田中くんが来店してくれて、「なぜ休んでいたのか?」と訊かれた。私は二人に心配を掛けたくなかったので、「風邪で寝込んでいた」と誤魔化した。

 凛ちゃんからは一時間おきに「大丈夫か?」というメッセージが届き、昼間には様子を見に来てくれた。
 そして、私と話し込んでいた和住さんを見るなり、「営業の邪魔だ」と言って追い出した。それに対して、和住さんは「酷い!」と嘆いていた。
 いつも通りの凛ちゃんと和住さんのやり取りを見て、私の中にあった不安はほとんど消え去った。



 店を閉めて店内の清掃をしていると、背後から扉の開く音が聞こえた。
「完売」の札は掛けてあるので、入って来たのは凛ちゃんだと思った。
 
「お疲れ、凛ちゃ――」
 
 私が振り向くと、そこにいたのは凛ちゃんでなく、大勢の強面の男たちだった。
「あれー?もう店仕舞いなのか。何か買って帰ろうと思ってたんだけどなぁ」
 先陣を切って店内に乗り込んできたのは、ゴリラのように筋骨隆々の大男だ。
 その大男が店内に入ると、後ろの男たちもゾロゾロと入って来る。

「えっ、な、何ですか……?」
 私は只物ではない空気を漂わせる男たちにたじろぐ。
 すると、先頭の大男が私に向かってヅカヅカと近寄ってきた。
 
「や、やだ……」
 私は身の危険を察知して、調理場へ逃げ込もうとする。

「おっと、どこに行くんだよ」
 逃げようと背を向けた私を、大男は羽交い絞めにし、悲鳴を上げようとする私の口を瞬時に塞いだ。
 私は咄嗟に藻掻いて男の腕から抜け出そうとするが、男の腕は岩のように固くて歯が立たない。
 
「大人しくしてくれよぉ。俺らだって、可愛いお嬢さんに怪我させたくねぇんだから」
 私の口を塞いでいる左手をよく見ると、小指が第二関節から先がない。
 それを見た瞬間、私はゾッとして「逃げたい」という気持ちとは裏腹に身体が固まってしまう。
 私はあまりの恐怖で全身の血が氷のように冷たくなり、嗚咽を漏らしながら涙を流した。

「安心しろよ、用があるのは()()()のほうだから。とりあえず、あんたには、あいつを釣るための餌になってもらうだけだよ」
 男の口から凛ちゃんの名が出た瞬間、私は血の気が引いた。
 
 どうしよう。この人たち、凛ちゃんに何かする気なんだ。

「用が済んだら、俺たちといっぱい遊ぼうなぁ」
 店内に、男たちの下卑(げび)た笑い声が響き渡った。
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