続・泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた2
 私は床にうつ伏せの状態で倒れている凛ちゃんに駆け寄り、彼を抱き起す。
「凛ちゃん!しっかりして!!!」
 腫れあがった顔は血まみれで、襟元にも血がべったりと付いている。
 ぐったりとして返事をしてくれない凛ちゃんに、私は最悪の想定をしてパニックになった。
 
「凛ちゃん!お願い、返事をして!」
 すると、凛ちゃんはゆっくりと目を開けて、私の顔を見ると「幸希」と呟く。
 私は凛ちゃんが目を開けてくれたことに安堵して、涙が溢れた。

「ごめんなさい……。私のせいで、こんな――」
「ごめんな」
 すると、凛ちゃんは私の頬を撫でて、涙を拭ってくれた。
「怖い思いさせて、ごめんな……。怪我、してないか……?」
 か細い声で凛ちゃんは問いかけてくる。
「私は大丈夫だよ」
「……よかった」
 凛ちゃんは私の返事を聞くと、優しく微笑んだ。
 私は傷だらけの凛ちゃんの身体を抱きしめた。彼は、そんな私の背中を優しく(さす)ってくれる。

「……なあ、幸希、さっきの亀の話――」
「お久しぶりですねぇ、副島(そえじま)さん。石井(いしい)の事件以来ですか?」
 浅田さんがニコニコと笑みを浮かべながら、こちらへ歩み寄ってきた。
「お怪我ありませんか?」
「わ、私は大丈夫です。でも、凛ちゃんが……」
 浅田さんは私の腕の中にいる凛ちゃんを見ると、「あらまぁ、こりゃ酷いですね」と目を丸くさせる。

「おーい、誰か救急車呼んで――って、誰もいない!?」
 浅田さんは静まり返った事務所内を見渡して、私たち三人以外に誰もいないことを確認すると、ため息を吐きながら電話を掛けた。
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