続・泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた2
 私たちは、二週間前にごく普通の三階建てのマンションに引っ越した。
 前に住んでいた高層マンションは、反田組のツテで借りていたものらしく、凛ちゃんが組を抜けた今、あそこに住み続けることはできなかった。
 以前のマンションよりも今の住まいは部屋が狭くて、凛ちゃんの収入が減ったことで生活も質素になってしまったが、私は今の生活のほうが気に入っている。
 凛ちゃんは以前よりも時間に余裕ができて、私と一緒に過ごす時間が増えた。そのため、最近ではよくドライブデートに連れて行ってくれる。
 それに、凛ちゃん自身も以前に比べて顔つきが穏やかになり、言動も丸くなったような気がする。

 自宅に着くと私はまず、ズボンのポケットに左手を突っ込んでいる凛ちゃんの姿が目に入った。
 
「ねぇ、凛ちゃん。私と二人きりの時は、左手隠さなくてもいいんだよ?」
 
 私がそう指摘すると、凛ちゃんはばつが悪そうに口をへの字に曲げる。
 
 あの日以来、凛ちゃんは日頃から左手をポケットに入れて隠すようになっていた。家にいる時もそうだ。
 私はいつも「隠さなくていい」と言っているのだが、凛ちゃんは全く改善しようとしない。今だって、左手をポケットに入れたまま出そうとしない。

「あっ!そうだ」
 私は良い作戦を思いつく。
「結婚指輪つけようよ」
 私は寝室からケースに入った結婚指輪を持ってきた。

「ほら、左手出して」
 私が片方の結婚指輪を取って催促すると、凛ちゃんは渋々左手を私の前に出した。
 その手には、――第二関節から先を失った小指がある。
 何も知らない人がこの欠けてしまった小指を見ると、きっと恐れおののくだろう。
 だけど、私には、この小指は「私と共に生きていく」という凛ちゃんの決意に思えて、むしろ愛おしさを感じる。

 そんな欠けてしまった小指のすぐ隣の薬指に、私は指輪をはめる。
 骨ばった凛ちゃんの指に、プラチナの指輪が光っている。
 
 「俺も、つけてやるよ」
 凛ちゃんは私の薬指から婚約指輪を外すと、代わりに結婚指輪をはめてくれた。

「あっ、なんか『夫婦になった』っていう実感湧いてきたかも」
 私は、お互いの指にはめられたお揃いの結婚指輪を眺めながら呟く。

 すると突然、凛ちゃんは私の身体を抱え上げた。
「――へっ!!?」
 急にお姫様抱っこをされて、私は素っとん狂な声を上げる。
 
 困惑した私を抱きかかえたまま、凛ちゃんは寝室へと向かい、私をベッドの上に下ろした。
「夫婦になったんだったら、()()も済ませておかないとな?」
「えっ?ちょ、ちょっと待っ――」
 凛ちゃんは私の上に覆い被さると、私の唇を塞いだ。
 
 初めは凛ちゃんを制止させようとしていたが、彼に口内を暴かれているうちに、私は身も心もすっかり蕩けてしまった。
 私のTシャツをたくし上げてブラジャーを上にずらし、こぼれ出た乳房を凛ちゃんは両手で揉みしだきながら、先端に舌を這わせる。
「んっ……」
 私はビリビリとした刺激に身じろぎながら、胸元に顔を(うず)めている凛ちゃんの頭を両手で包み込む。
 何度も胸を愛撫され、責め立てられ、私の身体は下腹部を中心に熱を帯び始めていた。
 
 凛ちゃんは私の服を脱がせると、自身も服を脱いでいく。
 現れた凛ちゃんの裸体には、彼の過去を物語るように龍の入れ墨が刻まれている。
 この入れ墨のように、凛ちゃんの過去は簡単に消えはしないだろう。
 だけど、それでいい。私は凛ちゃんの過去も、身体に彫られた龍も、丸ごと全てを愛している。これからずっと愛し続けると、そう誓ったのだ。

「凛ちゃん」
 私は起き上がって、凛ちゃんを抱きしめる。それに応えるように、彼も優しく私を抱きしめてくれた。

 背中に添えていた凛ちゃんの右手は徐々に下りていき、私の尻を撫でた。
「あっ……」
 私は思わず腰が跳ねる。
 そして、凛ちゃんの右手は太ももをゆっくりと這っていき、股の間に辿り着いた。
「んんっ……」
 ゆっくりと時間を掛けて、凛ちゃんは私の一番敏感なところを愛撫していく。そんな凛ちゃんの愛撫に、私は「もっと責めてほしい」と強請るように腰をくねらせる。

「――腰、動いてる」
 突然、耳元でそう囁かれて、私は思わず大きく身体を震わせた。
 
「ははっ、いやらしい奴」

 凛ちゃんの声が、吐息が、私の脳を刺激する。
 心臓がバクバクとうるさい。

「お前は耳も感じるもんな?」
「あっ、だめ……」
 凛ちゃんは私の耳を舐めながら、性器を愛撫する。
 脳内にねっとりとした唾液の音と凛ちゃんの吐息が反響し、次第に私の思考はドロドロに溶かされていく。
 耳を舐めながら、同時に性器も刺激されているというのに、私はもっと強い刺激が欲しくて仕方なかった。

 そんな私の欲望を見透かしたのか、凛ちゃんは私を再びベッドに押し倒した。
「挿れるぞ」
 私の両足を抱えると、ゆっくりと奥まで挿入した。
「あっ――」
 凛ちゃんのモノが奥まで到達した瞬間、私は視界が点滅した。
 
 絶頂の余韻で身悶えている私を、凛ちゃんは額に汗を滲ませながら見守ってくれる。
 私が落ち着いて呼吸を整えると、「動いていいか?」と尋ねてきた。私は彼の目を真っ直ぐ見つめながら、「いいよ」と答える。

 そして、ゆっくりと互いの身体を馴染ませるように、凛ちゃんは腰を動かす。普段の激しい動きに比べて、いつもよりもどかしさを感じるが、その分奥を突かれた時に広がる快感が大きい。
「幸希……」
 凛ちゃんは優しく私の頭を撫でながら、求め合うように私と舌を絡め合う。
 欲望を剝き出しにした行為のはずなのに、ゆったりとした凛ちゃんの腰の動きと、私の頭を撫でる彼の優しい手つきのせいで、私は包み込まれているような安心感を覚える。

 すると、私の頬を凛ちゃんの左手が撫でた。
 大きくてゴツゴツとした愛おしい左手を、私は握りしめ、思わず頬ずりする。
 左手の表面を指先でなぞると、固い指輪と短くなった小指の存在に気づく。そのどちらも、凛ちゃんが私を愛しているという証だ。

 私は無意識のうちに、凛ちゃんの左手の親指を口に含んでいた。
 すると、私のナカにいる凛ちゃんのモノが、先ほどよりも大きくなった。
「――へっ?」
 私は凛ちゃんの手を放す。
「お前、バカッ――」
 凛ちゃんは興奮したように顔を歪ませながら、荒い吐息を漏らしている。
「今日は、最後まで優しくしようと思ったのに……」
 
 すると、凛ちゃんは私の口に親指を突っ込むと、深く一気に私を貫いた。
「んんっ――」
 私の身体中に、甘くて鋭い快感が走る。
 凛ちゃんは先ほどとは打って変わって、欲望を露わにするかのように、激しく腰を打ち付けてきた。
「煽ったお前が悪いからな……」
 凛ちゃんは親指で、私の口内を愛撫するように弄る。それに対して、私は応えるように舌を指に絡めたり、吸ったりする。そのたびに、凛ちゃんは欲望を抑えられなくなっていく。

 完全に欲情した雄の視線を私に向ける凛ちゃん。だけど、私はこの顔が好きだ。
 理性を失いかけた凛ちゃんの顔を見ると、それまで私のために我慢してくれていたのだと分かって、むしろ愛おしさを感じてしまう。

「もう、だめ……」
 欲望に満ちた凛ちゃんによって私の身体は追い込まれ、もう限界を迎えようとしている。
 すると、凛ちゃんは指を口から引き抜いて、代わりに自身の舌をねじ込んだ。
 互いの唇を貪り合いながら、私たちは同時に果てた。

 凛ちゃんは性器を抜くと、私を抱きしめながら覆い被さるように倒れ込んだ。
 互いの汗ばんだ身体を抱きしめ合いながら、ゆっくりと呼吸を整えていく。

「なあ、幸希」
「ん?何?」
「明日、店休日だったよな?」
「……それがどうしたの?」
「――俺も、明日休み取ったんだよ」

 凛ちゃんは起き上がると、私の両足を抱える。
 どういうことだ?
 私が混乱していると、凛ちゃんの性器が再びいきり立っていることに気づいた。

「えっ?」
 まさか――と思っていると、不敵な笑みを浮かべた凛ちゃんが私の顔を覗き込んできた。

「散々煽りやがった()()()だ。一晩中付き合ってもらうからな」

 私は余計なことをしてしまったと後悔した。
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