続・泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた2
 そして、最後の四人目が、反田組系酒々井組組長・酒々井凛。――凛ちゃんだ。

「まあ、候補が四人いるって言っても、実質望月さんと三上さんの一騎打ちだけどね」
「えっ、どうしてですか?」
「簡単に説明すると、他の二人は『年齢』に問題があるんだ」
「年齢、ですか?」と、私は小首を傾げる。
「実は市ノ瀬さん、宮永さんよりも二つか三つくらい年上なんだよね。若頭は組長の後継者だから、それが組長よりも年上っていうのはマズいでしょ」
「なるほど、確かに」
 確かに、それだと組長の宮永さんが退くよりも先に、若頭の市ノ瀬さんがヤクザを引退するかもしれない。
「凛ちゃんは市ノ瀬さんとは逆で、若すぎるんだよね。市ノ瀬さんは五十代、望月さんと三上は三十代後半で、凛ちゃんはまだ二十代。ヤクザって無駄にプライドの高い連中の集まりだから、自分よりもずっと年下の若造の下につくなんて死んでも御免って奴らが多いんだ。もし、凛ちゃんが若頭に選ばれたら、内部抗争が起きるかもね」
 和住さんは「はぁ」とわざとらしくため息を吐く。
 
 正直、私は凛ちゃんが実質若頭候補から外れていると聞いて、少し安心した。
 反田組という大きな組織で地位が高くなるということは、敵対組織や警察に目を付けられやすくなるということだ。
 私は凛ちゃんが危険な目に遭うことが心配だった。

「でも、今の話を聞くと、三上さんのほうが有利そうですけどね。望月さん、何だかトラブルメーカーみたいですし」
「うーん、それがそうでもないんだよなぁ」
 和住さんはガシガシと頭を掻く。

「一年くらい前だったかなぁ?三上さん、敵対してる組の組長の孫娘に手を出しちゃったんだよね。それで怒った組長が反田組の事務所で、ショットガン乱射して大暴れしたの。三上一家の事務所じゃなくて、反田組の事務所で暴れた理由はよく分からないけど……。幸い近くをパトロール中だったポリ公がすぐに取り押さえて、怪我人は出なかったけど、事務所はもう穴だらけ。危うく抗争になりかけるところだったし……。その一件で、組織内の三上さんへの印象が結構悪くなってるんだよね」
「えぇ……」
 私は和住さんの話に困惑した。
「敵対組織のボスの身内に手を出すなんて……。三上さんって女癖悪い人なんですか?」
 私は、先ほどの和住さんの「三上さんには愛人が四人いる」という話を思い出した。
「女癖が悪いっていうか、『恋多き人』って感じかな。何だっけ?ポリアモリーっていうの?四人いる愛人に対しても、それぞれに本気らしいし。さっきの孫娘の件も『ロミオとジュリエットみたいで逆に燃え上がっちゃった』って言ってたし、組長の襲撃事件が原因で別れて、結構落ち込んでたし。抗争の火種になりかけたんだから、もう少し反省してほしいもんだけどね」
 呆れたように話す和住さんを見て、三上さんはその事件のことや反田組のことを軽く考えているのではないかと、私は思った。

「それに、最近望月さんの上納金が急激に増えてるって話もあるからね。昔はヤクザと言えば抗争で名を上げる奴が出世できたけど、最近じゃシノギで稼いで、多額の上納金を収めた奴が偉くなるんだ」
 かつて抗争で名を上げ、最近女性関係で問題を起こした三上さんと、かつてカタギに手を出して問題になり、現在では多額の上納金を収めている望月さん。
 二人とも悪い部分があるため、どちらを若頭に選べばいいかと訊かれると、正直悪い意味で悩むかもしれない。

「市ノ瀬さんが一回りくらい若かったら、あの人で決まりなんだけどなぁ。しばらくは後継者争いというか、派閥争いというか、反田組内がギスギスするかもね。下手すりゃ()()()()()かもしれないし」
 和住さんの言葉を聞いて、私は凛ちゃんのことが心配になる。
 もしかすると、凛ちゃんに危険が及んだりするのだろうか。
「ああ、でも、争うのは望月さんと三上さんだから、凛ちゃんは大丈夫だよ」
 私の不安を察したのか、和住さんはそう付け加えた。
「ふふっ、ありがとうございます。ちょっと安心しました」
 私は気丈に振る舞った。


 
 その翌朝、反田組の組長が死去したと、私はテレビのニュースで知ることとなった。
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