狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
……そんな栗花落の本音を、翔は何度も背中をさすりながら聞いてくれる。

「私が、悪いのっ? 現状に満足しちゃダメですか? 今が嫌なら、そう言ってくれればいいじゃないですか! 何も言わないで、他の女と仲良くして……! そんなのが、許される訳ない!」

「そうだよな。そうだ。全部、吐き出してしまえ」

翔の一言で、栗花落は鼻を啜る。
涙がこぼれて、もう堰き止められない。

「あの女もそうよ! 何が『大嫌い』よ! 私が何か悪いことをした? 私がっ、嫌われるようなことを一度だってしたっ?」

いろんな感情が溢れ出して、栗花落はついに叫んだ。

「私は悪くないっ。全部、あの二人が悪いのよ!!」

はぁ。はぁ……。はぁ……!

荒い吐息が漏れて、栗花落は唇を噛む。
やっと、本当に言いたかったことが言葉にできた。

この悲しい気持ちも、悔しい苦さも、息苦しい胸の鼓動も、翔が隣に居てくれることで、次第に落ち着いていく。

「……ありがとうございます」

栗花落は呟く。

「社長が隣に居てくれるから、つい本音が出てしまいました。……でも、おかげで少し、落ち着きました」

「そうか。それなら良かったよ」

翔はそう言って、栗花落の頭に手を置き、そっと撫でる。
異性から頭を撫でられることはそうないので、栗花落は一瞬ビクッと肩を震わせた。
しかし、不思議と嫌悪感はない。
むしろ、その手の温もりを、もっと感じていたい。そんなことを考えてしまうくらい、その手は心地が良かった。

「……それにしても、その男は酷い奴だな」

「え?」

栗花落が翔の方を向くと、彼はムッと目を細める。

「こんなにも可愛い女性を泣かせて、その背中を追いかけないのか。俺だったらあり得ないな」

「……」

確かに、勝は逃げた栗花落の背中を追いかけてくれなかった。
ただ動揺して、意味のない言い訳を並べていただけだ。

本当に、情けない奴だと思う。
こんな男と一瞬でも結婚したいなんて、思った自分がバカみたいだ。

「……結婚する前に分かって、良かったです。こんなに最低な人だとは思いませんでした」

「その通りだ。葛西さんの戸籍に少しでも傷をつけていたら、今すぐにでも怒鳴りこんでいるところだった」
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