狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
「……っ」

その声が異常なほど甘ったるく感じるのは、先ほどキスされたからだろうか。
彼の口づけは甘く、今は触れられただけでくらくらしてしまいそうだ。

翔のことは、多少なりとも理解している。
その優しさ、気配り、仕事に対する姿勢……どれをとっても、完璧としか表現できない所作。

『好き』や『恋人』なんて、おこがましくて言えないくらい、雲の上にいる男性だと思っていた。
だから、いざその言葉を使って告白されると、思考が上手く纏まらない。

(どうかしてる……。ついさっき、失恋したばっかりなのに。こんなの、おかしいよ……!)

心臓の鼓動がうるさい。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。

ただひたすらに、喜びが胸を満たしていく。
それは、先ほどまであった『悔しい』や『悲しい』を覆い隠し、女としての欲求が最高潮まで達していることに気づかせる。

(こんなイケメンに言い寄られたら、誰だって理性を失っちゃうから……! 多分、私だけじゃない! 全人類、こんなの耐えられないって……!)

『恋愛で傷ついたのなら、新しい恋で癒やせ』。

これは、先人なら誰しもが口にする、不変の事実。

「わ……私」

「なぁ。俺が彼氏じゃ、何か不足か? なんでもいい。言ってくれ」

「え……と」

「栗花落好みの男になりたいんだ。俺は、好きな女の色に染まりたい」

(何言ってるの、この人……!)

翔はさらりと告げる。


「栗花落色に染めてくれ。栗花落の理想の男に、必ず成って見せる」


「り、理想なんて、そんな……」

恥ずかしくて、翔となかなか目を合わせることができない。
どうして今、こんなことになっているのだろう。
失恋で傷心していたら、こんなイケメンに言い寄られるなんて……人生最大のサプライズだ。

「栗花落は、追いかけるのと追いかけられるの、どっちがいい?」
「……追いかけられたいです」

「結婚しても仕事は続けたい? 子育てに専念したい?」
「……仕事したいです」

「社内恋愛は嫌? ……じゃないよな?」
「……抵抗ないです」

「ほら。俺がぴったりじゃないか」

(え? そうなの?)

翔にまんまと言いくるめられ、栗花落はつい納得してしまいそうになる。
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