狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
栗花落自身、今一番に気になっている疑問は、そこだ。
いつ、どこで、どのようにして、栗花落のことを好きになったのだろう。

翔は抵抗することなく、嬉しそうに答える。

「俺がたまたまハイヤーを使わず、電車で帰宅しようとした日に、栗花落が爆睡してるところを見たんだ」

「爆睡……」

それはなんとも、恥ずかしい事態だ。
(今まで何度も爆睡したけど、知人に見られていたとは……)

「それで、最寄りの駅で降りれないんじゃないかと不安で、ずっと栗花落のことを見ていたんだ。そしたら、栗花落は十分後くらいに起きて、あ、もう大丈夫だなって、安心した」

(それが、好きとどう関係が?)

「その時、年老いた女性が電車に乗ってきて、栗花落がすぐさま席を立って、一緒に席まで腰に手を置いて引いてあげたんだ。その女性が、『疲れてるでしょう? 私は立ちっぱなしでいいから』って断った時、栗花落が『私、元気ピンピンなんで! 気にしないでください』って、笑顔で女性に話しかけてて……本当は寝落ちするくらい疲れてるはずなのに、そういうことが言える人なんだなって。誰かのことを思いやれる、優しい人なんだなって思ったんだ」

「……それは」

その日のことは、なんとなく憶えている。
真っ白な髪をした、腰の曲がったおばあちゃんに、席を譲ってあげたいと思った。
その時は残業続きで、寝る時間もろくに確保できていなかったから、ついつい電車の中で睡眠を取ることが多くなっていた。
でも、子どもの頃から母に『譲り合いが大切なのよ』と教わり、その日も自然と身体が動いたのだ。

「それを見て、次の日に栗花落を会社で見かけた時、なんてことない世間話をした。そしたら、疲れてるはずの栗花落が満面の笑みで『お仕事、楽しいですから!』って俺に言ってくれて。その笑顔で、この人は努力とか、人としての優しさとか、そういうものを忘れずに生きてるんだなって……そう思ったら、自然と栗花落のことが好きになっていた」

「それは……なんだか、嬉しいですね」
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