狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
十八時を過ぎ、定時上がりした今日。
栗花落は事前に翔と約束した、品川駅にある時計台の前で待ち合わせをする。
この大きな銀色の時計は、駅を象徴する有名な置物だ。
たくさんの男女が待ち合わせに利用しているが、翔と他の男性を見間違えるはずはない。

「社長!」

彼が来た瞬間、纏うオーラが常人のそれとは違うからか、一瞬で気づく。
すらりと伸びた長身は、ウエストがそこ? とびっくりするほど上にある。
どう見ても八等身だろう彼の身体は、モデルのように存在感が強い。
そこにいると、言葉を発していなくても、周囲に主張しているのだ。

こんな人に話しかける権利があるなんて、今でも不思議だ。
ましてや、デートなんて……前世でどれだけ徳を積んだというのだろう。

「栗花落。待たせてごめん」
「そんなに待ってませんよ。気にしないでください」

栗花落が駆け寄ると、翔は躊躇うことなく、栗花落の頭にポンと右手を置く。
そして、こちらがドキリとするような優しい微笑みで、そっと囁いた。

「可愛いね、栗花落。どこに居るのか、すぐに分かっちゃった」
「……それは、社長の方です」

「その『社長』呼び、やめないか? ここは会社じゃないんだから」
「……では、蓬田さん?」

すると、翔は少し考える素振りを見せてからこちらを見た。

「翔、がいいな。そのまま」

あっさりと言われた一言に、栗花落はぶんぶんと首を横に振る。

「それは、ハードルが高すぎです……! 社長の方が三歳年上ですし!」

翔は御年二十九歳。栗花落は二十六歳だ。
人生の先輩であり、上司でもある男性を、軽々しく名前呼びにはできない。

「でも、翔って響きが良いだろ? 気に入ってるんだ。『翔!』って呼んでみて? 呼びやすいから」
「いや、でも……!」

栗花落が難色を示すも、翔はなかなか食い下がらない。
「翔! って。ね?」

その笑顔に気圧されるように、栗花落はぽつりと呟く。

「……翔」
すると、翔はにっこりと笑った。

「ほら、言えた」
「……!」

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