狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
改札を出て、会社に向かう。オフィスは駅近で、そこまで時間は要さない。
あっという間にエントランスに到着すると、翔は栗花落の方を見て言う。

「また、仕事が終わったら連絡して? 栗花落の顔、帰る前に見たいから」
「……うん」

栗花落は恥ずかしさを覚えつつも、一度頷く。

(なんだか、付き合い立てのカップルみたい。……て、その通りか。こんな甘々な生活、人生で初めて過ぎて戸惑っちゃう)

翔と同じエレベーターに乗り込み、同じ二十五階で降りた。
しかし、執務室で勤務する翔とは、働くフロアが異なる。

「じゃあ、俺はこっちだから。栗花落、仕事頑張ってね」

爽やかな翔の笑顔に、栗花落は照れ臭くなりながらも笑いかけた。

「うんっ! 翔さんも、お仕事頑張ってね」

そうして二人は背中を向け、互いのオフィスへと向かって歩き出す。

(あ~、なんかもう、幸せ。失恋なんて、本当にどうでも良くなっちゃうくらい、今が幸せ。翔さんの顔、見てるだけで胸がドキドキしちゃう……!)

いつの間にか、勝のことなんてどうでもよくなっている自分がいる。
もう顔も思い出したくないくらい嫌な記憶しか思い出せないけれど、この気持ちをこれ以上燻らせていてはダメだ。
これからは翔と生きていく。そこに、一片の迷いもない。
だから、勝のことなんて全部忘れて、これからは、自分の幸せだけを追い求めていく……!

――――と、そんな決意をした栗花落を、密かに後ろでずっと見ている女がいた。
それは、勿論…………。


「先輩」

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