狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
栗花落が後ろを振り返ると、そこには腕を組んでつまらなそうな顔をした、斎藤彩絵がいた。
彼女はツカツカと勢いよく栗花落に向かって突進してくると、目の前で立ち止まる。

「先輩、男に振られたからって、すぐまた男ですか? それに、相手は社長? もしかして、私のことチクリました??」

彩絵は勤務時間中ではないからか、栗花落のことを見下した目で睨みつけ、こちらを威圧する態度を崩さない。
栗花落は慌てて言い返した。

「ち、チクったって……! 人聞き悪いよ! 私は何も言ってない!」

「嘘吐き! 昨日と服装一緒だし、社長と朝まで一緒に居たんでしょ? それで私のこと話してないとか、そんなのあり得ないから!」

彩絵は露骨に怒りを露わにしながら、鋭い眼光で栗花落を一瞥する。
どうやら、よほど栗花落のことが気に入らないらしい。
嫌いと言ったあの言葉は、どうやら本当のようだ。

「ていうか、相手が社長って……。ほんと、先輩って面食いなんですね! 先輩の性根が腐ってる証拠です!」

カチン──!
それは、聞き捨てならない台詞だ。

「そんなこと、彩絵ちゃんに言われる筋合いないから! そもそも、彩絵ちゃんが私の彼氏寝取ったから!」

「寝取った?? 違いますよ! 私はただ、勝が『可愛いね』って褒めてくれるから、彼の寂しさを身体で埋めてあげただけです! ほんと、別れてすぐに他の男と付き合うとか、勝が可哀想!」

「はぁ? 勝は浮気してたんだよ!? なんで勝が可哀想なのよ!」

「先輩が全部悪いのに、勝のせいって……。先輩、何も分かってない! だから浮気されるんですよ! 自業自得!」

何を言っても、このままでは平行線だ。
所詮、彩絵は彼氏を寝取った最低な後輩。
意思疎通なんて、できるはずがない。
栗花落はもう言い合う気も失せて、そのまま彩絵に静かに背を向けた。

「私に関わらないでって、言ったよね? 二度と話し掛けてこないで」

「うわっ。逃げるんですか? サイテー。先輩って、やっぱり自分が可愛いだけの、つまらない女なんですね!」

――――『つまらない女』。

そんな罵声を耳にした瞬間、怒りのスイッチがオンになる。
栗花落はついに、心の中で思っていた言葉が口を突いて出た。
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