狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
「こんにちは。西山さん。こうして話すのは初めてになるかもしれないな?」
「……なんですか? 急に」
勝がそう言うと、翔は途端に鋭い眼光を彼に向けた。
「事の詳細は葛西さんと、斎藤さんから聞いた。ダメじゃないか。会社で不貞行為を働くなんて、人生を棒に振るようなことだぞ?」
すると、勝は露骨に動揺する。
「……えっ? は、はぁ? しょ、詳細?」
これ以上、何を言おうと無駄だ。
翔は、事の委細をすべて知った上で、ここに居る。
「君が浮気して、二人の女性を傷つけた件だよ。憶えがあるだろう?」
「い、いや、えと……。違いますよ! 俺は何もっ」
どうして、事実を尋ねているのに、否定するのだろう。
この後に及んで、まだ罪を認めないつもりだろうか。
「斎藤さんは、正直に自分のしたことを認めてくれたよ。君は違うのか?」
「な、なんで……」
すると、翔はふうっと盛大なため息を吐く。
そして、勝を不快なものを見るように睥睨した。
「……どうして俺は、こんな奴に気を遣って、三年も好きな女を口説けなかったんだろうな?」
「ふぇ? え?」
翔は心の底から悔いるように頭を小さく横に振って、勝に言い放つ。
「君の処遇は追って知らせる。生ぬるいものと思うなよ? 君はこの先、この会社でずっと肩身の狭い思いをする」
それは、事実なのだろう。
翔は、この件に関して、一切の容赦がない。
「――――それが、こんなにも素敵な女性を、泣かせた罰だ」
「ひ、ひぃっ!」
勝はこの状況を未だに呑み込めていないのか、酷く狼狽えたままだ。
(はぁ。私、こんなにも情けない人と、三年もの時間を無駄にしたのね……)
自分にも呆れてしまうが、今は翔が隣に居てくれる。
栗花落はスッキリとした顔で言い放った。
「ご愁傷さま。アンタに同情するつもりは、一生ないから!」
栗花落の一言に、勝は自身の心臓をぐっと右手で掴んで、ヘラヘラと笑いだす。
「な、なんだよもう……。一回だけだろ? なんでそんな大事に……」
「一回でも、ダメなの! 人として、アンタは最低なことをしたの!」
「……そ、そんなぁ」
勝は項垂れて、死んだ魚のような目をする。
(自業自得よ。ほんと! なんでそんなことも、言わなきゃ分からないの! この男は!)
栗花落はふんっ! と鼻息荒くそっぽを向くと、勝に背中を向けた。
「社長。行きましょう。これ以上は時間の無駄です」
勝の顔を見ているだけで、吐き気がする。
甘ったれた考えでこの会社で働くこと自体、許せそうにないのだ。
彼には、彩絵以上に重い罰を与えてほしい。
「言いたかったことは、全部言えたか?」
翔の問いかけに、栗花落はふふっと笑みを見せた。
「はい! おかげさまで!」
だから、これで浮気騒動は、一旦終止符を打とう。
二人の今後については、あまり深く考えないことにする。
(二人とも、人として悪いことをした。それに対する処分が下るのは、私のせいじゃない。自己責任なんだから)
ようやく、二人に本音で話せて、栗花落もそう思えるようになった。
これからは、翔と二人で新しい未来を作っていく。
それがどんな未来なのか、今はまだ分からない。
それでも、きっと想像もつかないくらい、素敵な未来が描けるだろう。
今は、そんな気がしてならないのだ。
「ありがとう、私の隣に居てくれて」
栗花落が感謝を口にすると、翔は小さく笑った。
「ああ。それなら、良かった」