狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
玄関は白い大理石で、目の前には長い廊下が続いている。
栗花落は慎重に靴を脱いで、おそるおそる廊下を進むと、最奥にはリビングが広がっていた。

黒のフローリングに、大きなガラステーブルがある。テーブルの上にはガーベラの切り花が生けられていて、細長い白のクロスが敷かれていた。
その左にはアイランドキッチンがあり、解放感のある空間となっている。
壁には大型テレビが埋め込まれていて、その前には黒革のソファがあった。

「綺麗なお部屋……。素敵ですね?」
「栗花落にそう言ってもらえると、素直に嬉しい」

翔は照れ臭そうに微笑んで、ウキウキと肩を揺らす。
栗花落はきょろきょろと周囲を見渡して、ソファに腰かけた。

「わっ。ふかふかっ」
「それ、特注品なんだ。イタリアへ旅行に行った時、職人に作ってもらった」
「そうなんですか? なんだかもう、座っただけで寝落ちしそうです」
「ハハッ。俺も何度か寝落ちしたことがある」

翔は冷蔵庫から赤ワインを取り出すと、二つのグラスに注ぐ。
それをソファの前にある小さな木製の丸テーブルに置いて、栗花落に差し出した。

「ワイン、飲めるか?」
「はい。大好きです!」
「乾杯しよう。すごく美味しいんだ。このワイン」
「え~。楽しみ!」

栗花落はグラスを手にして、翔のグラスとカチンと音を立てて重ねる。
「いただきます」
グラスを揺らしてから、匂いを嗅ぐ。
そして一口、味を確かめるようにグラスを傾けると、その芳醇な味わいに舌鼓を打った。

「う~ん。濃厚。渋みがいい!」
「分かるか? この渋みが癖になるんだよな」
「なんかこう、安いワインってサラッとしたのが多いんですけど、これは良い感じに飲みにくいというか。時間をかけてゆっくり味わいたい、そんな味です!」
「ああ。安酒もよく飲むが、たまにこういうのを飲むと、新しい発見があっていいんだよな」

ワインのことを語り合って、楽しい時間が過ぎていく。
外から見える夜景はネオンの如く輝いていて、民家が米粒のように小さく見える。
空には大きな満月が浮かんでいて、その周りを小さな星が埋め尽くしていた。

「こんなところで毎日寝起きしてるなんて、羨ましいな~。私なんて、ワンルームの賃貸マンションですよ」

部屋も帰って寝るだけで、土日は掃除をしてダラダラ過ごしたらそれで終わりだ。
人を呼べるような場所ではないし、こんな素敵な空間で毎日寝起きしているなんて、羨ましい以外の何物でもない。

「……それなら、一緒に住めばいい」

翔は呟く。栗花落は顔を上げた。

「え?」

聞き返すと、翔は栗花落と向かい合って、真剣な顔つきをする。
そして、ハッキリとした声で告げた。

「一緒に住もう。今すぐにでも、ここで」
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