狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
そうして、怒涛の一カ月が過ぎ、栗花落はようやく引っ越しから荷解きまでを終えると、仕事からまだ帰って来ない翔のために二人分のご飯を作り始めた。

今日は鳥の照り焼きとほうれん草の胡麻和え、サラダと白米、お味噌汁だ。
栗花落は魚料理よりも肉料理の方が好きだから、自然と食卓に並ぶのは肉が多くなってしまう。
翔は何も言わないが、たまには魚料理も作らないとな、と自分に言い聞かせているところだ。

翔との家事分担は、お互いに得意なことを尊重しようということで、料理が栗花落、掃除や洗濯が翔の担当だ。
栗花落は翔のように、綺麗なアイロンがけはできないし、埃一つない部屋を保つのは難しい。
一方で、料理に関してはかなりの自信がある。栗花落好みの味つけにはなってしまうが、翔はいつも美味しそうに食べてくれるから、作る甲斐があるというものだ。

「ただいま」

少し、疲れたような声が玄関から聞こえてきて、急いで栗花落はお迎えに行く。

「おかえり! ご飯、そろそろできるよ!」

翔はため息を吐きながら顔を上げるも、栗花落を見るなり、にっこりと笑顔を浮かべた。

「ああ。ありがとう」

翔と一緒にリビングに向かい、栗花落はその隣にあるキッチンで鳥の火入れを確認する。
翔はネクタイを緩めながら、ふうっと、またため息を吐いた。

「どうしたの? 何かあった?」

栗花落が問いかけると、翔はハッとした表情をする。

「……ごめん。栗花落に心配されるようなことじゃないんだ」
「そう? 会社のこと?」
「ああ。海外の事業のことで」

栗花落は日本の事業にしか携わった経験がない。
おそらく、聞いたところで内容はあまり理解できないだろう。

「何か、トラブルでもあったの?」

「トラブルと言うか……。円安の影響で」

「ああ。なるほど?」

これ以上詳しく話を聞いても、おそらく力にはなれない……。
栗花落は気を取り直して、美味しく焼けた鶏肉を綺麗に皿に盛りつけた。

「夕飯できたよ! 早く食べよう」

「ああ」
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