狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
すると、翔はおかしそうに目を細める。
「栗花落、酔っぱらったりしない?」
「えぇ? する訳ないでしょう? 本物のワインが入ってるの?」
「らしいけど。そろそろ投入時間じゃないか?」

見ると、ワイン風呂の前にある看板には、十一時からワインを投入する時間だと書いてある。

「えっ、本物なの? 酔っぱらわないのかな?」
「酔っぱらったら、すぐホテルに戻るからな?」
「それはつまらない……。でも、ワイン投入は見てみたい!」

栗花落は翔の腕を引いて、一緒にワイン風呂に浸かる。
足から入ってみたが、お湯はそこまで熱くない。
あくまで入浴というより、アクティビティが重視されているのだろう。

「結構混んでるな?」
「うん。土曜日だもんね?」

身体までワイン風呂に浸かって、翔の方を見る。
赤ワインの色は深く、浸かっただけで身体が見えなくなる。
周りには子ども連れも多く、そろそろ投入時間ということも相まって、徐々に人が集まり始めていた。

「十一時になりました! これから、ワインの投入を始めたいと思います!」

従業員の声掛けにより、ボトルに入ったワインが多数運ばれてくる。

「あれ、全部入れるのかな?」
「そうじゃないか?」
「太っ腹だね?」
「もっと近くに寄るか?」
「うん。そうしよ!」

翔と一緒に従業員の近くまで寄り、ワインの投入を待つ。

「そ~れ!」

掛け声とともに、赤ワインのボトルが次々にお風呂に投入されていく。
「わ~! 本当に入った!」
きゃっきゃっと子どものようにはしゃぐ栗花落を見て、翔は嬉しそうに口角を上げる。
「……楽しそうで、何よりだ」

翔はこの状況でも至って冷静で、栗花落が楽しむ姿を見て楽しんでいるように見えた。

「ねえ、翔さんも。ほら! 手を出して!」
「それは恥ずかしいな」
「ここ、そういう場所だから! ね?」

渋る翔の手を引っ張って、ワインを思い切り手にひっかけてもらう。
「わ~! ワインをこんな贅沢に使うの、初めてかも!」
「ハハッ。そうだな」

栗花落はワインをかけてもらった両手をお風呂に入れて、それが中で溶けていく瞬間を見つめる。
「あ~。ふふっ。楽しい。私、ここに来て良かったかも!」
「じゃあ……今度は、俺が行きたいところ言ってもいいか?」
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