狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
翔の提案を、栗花落は快諾した。

「もちろん! どこ行きたい?」

翔がこういう時、自分の意見を言うのは少し珍しいような気もする。
だから、彼の行きたいところだったら、どこにでも一緒についていきたい気分だ。

「じゃあ……ドクターフィッシュ体験」

自分の意見を主張して、翔は少し恥ずかしそうだ。
栗花落は笑顔で言った。
「いいよ! 行こ!」

一緒にワイン風呂を出て、ドクターフィッシュ体験ができるコーナーに二人は移動する。
そこは人気ブースのため、既に長蛇の列ができていて、最後尾に並んだものの、入口が見えないほど遠い場所だ。

「人気過ぎない?」
「魚も、そんなにお腹は空いてないだろうな」
「確かに!」

こんなに大人数の角質を食べるなんて、ドクターフィッシュはつくづく大変だ。
そんなことを思っていたら、翔はまた、栗花落の手をぎゅっと握りしめてきた。

「ふふっ。ありがとう」
栗花落がお礼を言って指を絡ませると、翔は口角を上げる。

「栗花落は俺と付き合ってるんだぞって、いっぱい周りに見せつけたくて」
「そう? じゃあ、私も」

翔という最高の彼氏がいるのだ。
めいっぱい、そこらじゅうの人に自慢して回りたい。
(そういう思考はバカップルって、分かってるんだけどね)
けれど、翔と一緒に居ると、周りがあまり見えなくなって、彼と二人だけの時間を大切にしたくなってしまう。
「翔の手、あったかい」
「温泉って言うけど、そんなに温度高くないもんな」
「うん。今もちょっと寒い」
「そう? じゃあ、抱きしめようか?」

クスッ。
翔の試すような笑みに、栗花落の頬は赤くなる。
「それは……さすがに。恥ずかしいから、ダメ」

自慢して回りたいけれど、寒いという理由で翔の身体で暖を取るのは、やっぱり恥ずかしさが勝った。
「タオル持ってきてるから、身体拭くね」
「ああ。風邪ひかないようにな」

栗花落は自身の身体をタオルで拭うと、翔の上半身にタオルを向ける。
「翔も、寒いでしょ? 拭いてあげる」
「ありがとう」

翔の身体をタオル越しに感じる。その鍛えられた肉体は硬く、栗花落のとはまるで違う感触だった。
胸を拭き終えて、翔は背中を向ける。彼の背中に残る水分をぽんぽんと拭いて、栗花落は声をかけた。

「うん。綺麗に拭けたよ」
「ありがと。ちょっと寒くなくなった」
「良かった」
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