狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
そう考えただけで、心臓が大きく脈を打った。
緊張で、検査薬を持った手が震えている。

正直なところ、今まで、妊娠は自分にとって縁遠いものだと思っていた。
赤ちゃんができるなんて想像もできなかったし、子どもが欲しいという漠然とした希望はあったけれど、いつ頃欲しいか、など、これといった具体的なプランはない。

「はぁ。はぁ」
栗花落の視線が、検査薬に釘付けになる。
すると、じわりと液が滲んで、やがてくっきりと、赤い線が浮かんできた。

「え……嘘。ほんと……?」

それは、まさしく陽性。
お腹の中に、赤ちゃんがいる合図だ。

「赤ちゃん……いるの? ここに」

栗花落は右手で下腹部をさすって、ドクンドクンと騒ぐ心臓を、左手でぎゅっと掴む。

────翔と栗花落の、赤ちゃんができたのだ。

(翔、喜んでくれるかな? 赤ちゃんなんて、まだ早いと思われるかな?)

喜びと緊張、不安が入り混じって、不思議な感覚がする。
新しい命を授かったことは、飛び跳ねるように嬉しい。
でも、翔がどんな反応をするか、心配でもある。

翔は会社の代表取締役社長を務める多忙な人だ。
簡単に育休を取ることはできないし、育児に参加することも難しいだろう。
彼はまだ若い。もう少し、子どもは後で良いと思っていたかもしれない。

(それに私たち、まだ結婚してないし……。でき婚になっちゃうよね。翔はそういうの、気にしないタイプかな……?)

不安で、心臓がバクバクする。
彼の反応を見るのが怖い。
きっと、表面上は喜んでくれるだろう。けれど、一瞬でも動揺した姿を見せられたら……。

(あ~! もう! 何を心配しているのっ? 今までだって、翔は私の一番の味方だったじゃない! 絶対に喜んでくれる! 絶対にこの子を大切にしてくれる! 何も心配することはない! そうでしょう?)

自分で自分にそう言い聞かせ、二時間近い時が過ぎた。
すると、玄関の鍵が開いて、翔が帰宅してくる。

「ただいま」

いつも通りの、彼の声が聞こえる。
栗花落は咄嗟に検査キットを隠して玄関に向かった。

「お、おかえり!」

「ああ。栗花落。体調は大丈夫なのか?」

翔は、栗花落が朝にコーヒーを飲めない姿を見かけている。

「うん。今は落ち着いてる」
「そうか。明日も仕事、行けそう?」
「今のままなら……大丈夫だと思う」

すると、翔は安心したように笑顔を見せた。

「良かった。体調回復したんだな」

「……でもね?」
「ん? なんだ?」

今だ。今しかない。
勇気を出そう。
大丈夫。翔ならきっと――――!

「赤ちゃん、できたみたい」
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