狂おしいほどに、抱きしめて〜エリート社長と蕩けるような甘い蜜愛〜
栗花落はその誘いに頷くも、同時に不安が頭を過ぎった。
確かに、今、栗花落は勝と彩絵に傷つけられ、悲しみに暮れている。

しかし、こんなプライベートな話に、社長を巻き込むのは正解だろうか?

そもそも、思考も纏まっていないようなぐちゃぐちゃな感情を、社長に見せたら迷惑がられないだろうか?
翔は多忙を極める企業の社長、しかも現在は就業時間中だ。
栗花落が執務室の前で泣いていたから放っておけない、という気持ちは理解できるが、そんな自分のために時間を作れるほど余裕があるようには思えない。
栗花落は不安を覚えつつ、入社して初めての執務室に入室する。

「失礼します」

「そういうのはいいから。ソファに座ってくれ」

涙の止まらない栗花落を見て、翔は左手を栗花落の肩に右手を腰に当てると、介抱するようにソファまで誘導してくれる。

(温かい手……。少しだけ、身体の震えが止まった気がする)

どうしようもないこの状況の中で、差し伸べられた手は、予想外にも優しかった。
この世界には、苦しい状況に遭っても、自分に手を差し伸べてくれる人が少なからず一人はいるのだと、安堵する。

あんなにも震えていた身体は、少しだけ落ち着きを取り戻し、翔の言葉を冷静に聞けるようになっていた。

「これ、ハンカチ。好きに使っていいから。返さなくていい」
「え、そんな……」

「こういう時のために持ってるんだ。誰かの為になるなら、そのハンカチも本望さ」

目の前に差し出された青いハンカチを、栗花落は小さく頷いて受け取る。

「ありがとうございます」

栗花落がそのハンカチで、そっと涙を拭うと、翔は安心したように息を吐く。
それからコーヒーメーカーの前に立つと、彼は二杯分のホットコーヒーを淹れてくれた。
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