一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
「ごちそうさまでした……」
「……お粗末様でした」

 岡本さんは私が食べ終えたのを確認すると、テキパキとティーセットを片づけ始める。

 その流れるような動作をぼんやりと見つめていた私は、彼が立ち上がってトレーを持ち上げたことで、試食を終えたならさっさと帰れと促されていることに気づく。

 そうだ。私、お金を払ってない……!

 見た目は凄い色をしていたけれど……。

 こんなにおいしいトリュフチョコを食べたことがなかった私は、慌てて立ち上がると岡本さんに向けて叫んだ。

「あ、あの!」
「……どうかしましたか」
「ほかのチョコも、見ていいですか!?」
「……いえ。次回にしてください」

 勢いに任せて大声を出したのが、いけなかったのだろうか。

 岡本さんは首を振ると、私の申し出を断った。

 ――駄目、だって……。

 私はしょんぼりと肩を落として悲しい気持ちになったけれど、すぐに拳を握りしめて持ち直す。

 ちゃんと、自分の言葉で伝えなきゃ。
 もう、感情を押し殺したくない……!

「ちゃんと、自分のお金で買いたいです……!」

 岡本さんがどんな反応をするのか怖くて、叫んだあとに両目を強く瞑る。

 ゆっくりと瞳を開いたのは、パタパタと近くで足音が聞こえたからだ。

 ――岡本さんの隣には、紙袋を手にした妹さんが笑顔で立っていた。

「ありがとうございます。気に入って頂けたようですので、うちで取り扱っているショコラを一式ご用意いたしました」
「そ、そんな……!」
「どうぞ、お持ち帰りください」
「そこまでしていただくわけには……!」

 私は必死に固辞したけれど、岡本さんも譲らない。

 長い間、攻防を繰り広げていたけれど……。

 妹さんから紙袋を受け取ってこちらへ押しつけてくる彼は、絶対に私がそれを受け取るまで引くつもりはないようだ。

「……気に入ったものを次回来店の際に購入して頂ければ、構いません。うちのショコラは、10代後半の少女が気軽に買うには高すぎる」

 そこまでされたら、拒否し続けるのは失礼だよね……。

 そう考え直した直後聞こえてきた言葉に、私はしょんぼりと肩を落とす。

 私はもう、少女と呼ばれるような年ではないのに……。

 やっぱり岡本さんから見れば、恋愛対象外なんだ……。

 私は渋々、岡本さんに差し出された紙袋を受け取った。
< 10 / 37 >

この作品をシェア

pagetop