一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
23歳の呼び出し
 ――ショコラ・ドゥ・マテリーゼで岡本さんに出会ってから、五年後。

 23歳になった私は大学を卒業し、無事に社会人になっていた。

 けれど……。
 岡本さんと私の関係は、ショコラティエと常連客のまま。

 チョコレートのように、甘くとろけるような恋に進展することは残念ながらなかったが――着実に一歩ずつ、彼との距離は近づいていると思いたい。

「うちに就職すればよかったんだ」

 五年も経てば、岡本さんも砕けた口調になる。

 最近の彼は仕事が忙しく、私が閉店間際にやってくるたびに不満そうな声を上げていた。

「人手は足りていますよね?」
「真田がうちで働いてくれたら、すぐに試作品のフィードバッグが得られる」
「それは私でなくとも、いいような……」
「真田でなければ駄目だ」

 真剣な眼差しで見つめられると、困ってしまう。
 ドキドキと胸が高鳴って頬が赤くなるのは、初めて出会った時から変わらない。

 数分一緒にいるだけでも、胸の鼓動が痛みを感じるほどに早くなるのに……。

 きっとお店で働いたら、倒れて迷惑をかける。
 それだけは、絶対に嫌だから。

 無理だって、わかっているけれど。
 いつか恋人になれる日を、夢見て……。

 店長と従業員の関係性になることだけは、絶対に固辞し続けていた。

「真田のおかげで、うちの店は行列ができるほどに成長したんだ。あの日出会えなければ、今頃……。潰れていたかもしれない」
「そんなこと……!」

 岡本さんは私のことを、会うたびにべた褒めしてくれる。

 出会った当初は呼び込みをしなければならないほどお客さんが訪れることなく、閑古鳥が鳴いていたショコラ・ドゥ・マテリーゼは、雑誌で紹介されるほどの有名店になっていた。

 イケメンショコラティエと顔写真つきで広告が掲載され、テレビで特集番組が放送されているのを見るたびに、自分のことのように喜ぶ一方で……。

 岡本さんに彼女ができたらどうしようと怯える自分がいることも、無視できなくて……。

 私はいつも、どんな顔で岡本さんに会えばいいのだろうかとドキドキしながら、仕事帰りに顔を合わせていた。
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