一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
「ありがとう、真田。あの日俺と、出会ってくれて」
「い、いえ! こちらこそ……! 私は岡本さんと出会えて、とっても幸せです……!」

 岡本さんが作った一口フロランタンに舌鼓を打ちながら、幸せを噛みしめる。

 親元を離れて五年。住む場所を変え、父親以外との連絡を断った私の人生は、平和そのものだ。

 このまま、彼ともっと仲良くなって……。
 結婚を前提としたお付き合いができればいいのに……。

「真田」
「は、はい!」
「携帯、鳴っているぞ」

 ぼんやりと岡本さんが閉店準備をする姿を眺めていれば、彼に声をかけられた。

 夢を思い描いている場合じゃないと慌ててお礼を告げてから、携帯を取り出して耳に当てる。

「もしもし?」
『久しぶりだな、香菜……』

 こんな時間に、誰だろう?

 硬い声で電話に出れば、聞こえて来たのは憔悴しきった父の声で……。

「お父さん? どうしたの?」
『母さんが倒れた。もう、長くはないらしい。申し訳ないが、一度顔を見せに来てくれないか』

 それは、思いがけない提案だった。

 やっと幸せになれそうだと、思っていたところだったのに。
 地元に戻ったら、直也と鉢合わせてしまうかもしれない。

「真田」

 あの人が大嫌いな容姿をしている今の私が、彼と顔を合わせたら――暴力を振るわれてしまう可能性だってある。

 最悪の場合は、ここに戻ってこられないかも……。

「どうした。顔色が悪い」
「あ……」

 岡本さんに、心配をかけてしまった。

 なんでもありません。
 そう言って、安心させなければならないのに……。

 お母さんが死ぬかもしれない。
 会いに行けば、直也から酷い扱いを受ける。

 そう考えたら、うまく言葉が出てこなかった。

「父親と、仲が悪いのか」
「……い、え……。父との仲は、良好です……」
「ではなぜ、そんな顔をしている」

 岡本さんは、苦い表情をしている。

 大好きな人だからこそ。
 私のことは、なんでも知ってほしい。

 悲しい気持ちにさせたいわけではないのに……。

『香菜? 誰かと一緒にいるのか?』
「ご、ごめんね。お父さん。このあと向かうから……!お母さんが入院している病院、メッセージで教えて!」

 電話越しの父へ矢継ぎ早に伝えると、通話を終えて岡本さんを見上げる。
 彼は内容を把握したからか、目を見張っていた。
< 13 / 37 >

この作品をシェア

pagetop