一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
「顔色がよくなったな」
「は、はい!」

 私は笑顔で返事をしたあと、思わずしまったと口元を抑える。

 謝罪をするべき場面だったのに……!
 満面の笑みを浮かべてどうするの!?

 またやってしまったと反省しながら、しょんぼりと肩を落とす。

「ご迷惑をおかけして……」
「謝罪は不要だ」
「でも……!」
「いい。本当は……」

 なんだろう?

 歯切れの悪い岡本さんの言葉に、私は首を傾げる。
 やがて彼が口にした言葉は、想像もしていなかった内容で……。

「俺も病院まで、着いていきたいのだが」

 思いがけない岡本さんの提案に、ドキドキと心臓が脈打つのを感じた。

 彼も私と、同じ気持ちだったんだ!

 ショコラ・ドゥ・マテリーゼは明日も通常営業の予定だから、その好意に甘えることはできないけれど……。

 それがわかっただけでも、とってもうれしい。

「……その気持ちだけで、充分です」
「――俺は少しだけ、残念だ」

 車は浜松駅のバスロータリー前で停車する。
 シートベルトを外して降りる準備をした私に、岡本さんは思わせぶりな言葉を紡ぐ。

「真田が暗い表情のままであれば、一人で行かせるつもりはなかったよ」

 一体何が、残念なんだろう?

 その疑問は、すぐに解消された。

 これって……。
 数分間の車内デートになんか浮かれなければ、岡本さんはお店を臨時休業にして、一緒に着いてきてくれたってこと!?

「時間だな」

 そのほうが、私も絶対によかった……! 一人で直也と戦いたくなんてないけど、岡本さんとあの人が顔を合わせたら、トラブルになるのは間違いない。

 ――迷惑なんて、かけられないよ。
 やっぱり、一人で行こう。

 そう私が決意すると同時に、手首を掴んでいた手が離される。

「真田」

 お礼を告げてから車を降りれば、助手席の窓ガラスを開けた岡本さんに呼び止められた。

 彼の目は真剣そのもので、覚悟のようなものを感じる。

 どうしたんだろう……?

 車を降りて立ち竦んでいると、岡本さんは重苦しい口を開く。

「話したいことがある」
「私に、ですか?」
「ああ。必ず、戻ってこい」
「――はい! 行ってきます!」

 私は笑顔で別れを告げると、浜松駅二十三時二十五分発の新幹線に飛び乗った――。
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