一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
 自販機で人数分の缶ジュースを購入した幼馴染は、手を繋いだままでは持ちきれないと判断したのだろう。
 当然のように私へ運びきれない分を押しつけてくる。

「ねぇ。手……」
「なんだよ。俺のやることに文句でもあんのか?」

 そうやってすぐに、荷もの持ち扱いしてくるところが嫌いだ。
 私は怒り狂いたい気持ちをぐっと堪え、渋々彼と手を繋ぎ続けた。

「ああ、やっぱり! 香菜の隣は、直也くんが一番しっくり来るわ!」

 母さんは、私と直也が手を繋いでいる姿を見て子どもの頃に戻ったみたいだと大騒ぎしている。

 ――私が幼少期、どれほど惨めでつらい経験をしてきたか……。
 よく知っているくせに。

 今まで散々傷ついてきた娘の気持ちなど一切顧みず、母はこの後に及んでも自分の意思を貫き通すつもりらしい。

「直也くん。私がいなくなっても、香菜をお願いね」
「ああ。もちろん!」

 これが最後かもしれないのに。

 会いに来なければよかったなんて、思わせないでほしかった。

 笑顔の幼馴染が、おぞましいものに見えて仕方がない。
 私なんかのために、仕事を休んでまで着いてきてもらうわけにはいかないと……。
 岡本さんに、遠慮なんてしなければよかったと後悔した。

「直也、離して。お手洗いに……」
「トイレ? 俺も行く」
「着いてきて、どうするの」
「扉の前で待っているに決まってんだろ」

 女子トイレの前で待っている男など、どう考えたって不審者でしかない。
 そのまま、逮捕されてしまえばいいのに。

 残念ながら彼には、母と一緒へここに留まっていてもらわなければならない理由がある。

「すぐに、戻ってくるから」
「逃げるなよ。五分経ったら、様子を見に行くからな?」
「うん」

 直也はかなり警戒していたようだが、私がしっかりと頷けば渋々手を離してくれた。

 今度こそ、もう二度と会うことはないだろう。

 ――女子トイレの中まで追いかけて来ようとするなんて、最低にもほどがある。

 そう考えながら――。
 私は母の病室をあとにする。

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