一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
 五分もあれば、駐車場に車を止めて待機している父と合流するのは余裕だろう。
 私は一度トイレの中に入り、勢いよく鞄を逆さにして中身をぶちまける。

 ――ほら。やっぱりあった……。

 見覚えがない熊のぬいぐるみをトイレのサニタリーボックスに投げ捨て、移動を開始する。

 非常階段を勢いよく駆け下り全速力で駐車場まで向かい、父の車に乗り込んだ。

「出して!」

 シートベルトを着用すれば、もの凄いスピードで車が東京駅に向かって走り出す。

 服にもGPSがついていないか入念にチェックしながら、スマートフォンを使って新幹線のチケットを取得した。

 さすがに東京駅にさえ着けば、追いかけては来ないだろう。

「香菜……」
「お母さんが死んでも、一人で葬儀に顔を出すつもりなんてないから」
「……ああ。それがいい。今日は無理を言って、すまなかった……」

 苛立つ私の様子を見かねた父が五年前と同じように、申し訳なさそうな表情で別れを告げたのが印象的だった。


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