一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
想いを通じ合わせて
――やっと浜松に、戻ってこれた……。

 ほっと胸を撫で下ろした私はバスに揺られ、最寄りの停留ところで下車する。
 あとはまっすぐ家に帰って、明日の仕事に備えて寝るだけだ。

 このあと特に用事がなかった私は、思い切ってショコラ・ドゥ・マテリーゼへ足を運ぶことにした。

 今すぐ彼と、話がしたい。

 大嫌いな幼馴染と繋いだ手のぬくもりを、忘れさせてほしかったのだ。

 けれど……。
 大人気店と貸した岡本さんのお店は、日曜日の昼時ともなれば外まで行列ができるほどの大盛況。

 とてもじゃないけれど、のんびりと店主のショコラティエとお話できるような状況ではない。

 ――出直そうかな……。

「真田さん!?」

 長い行列に恐れを成して踵を返せば、最後尾のプラカードを持った女性店員に声をかけられた。

 彼女は最近ショコラ・ドゥ・マテリーゼでバイトを始めた大学生で、私とも面識がある。

「お疲れ様です! ショコラをお求めですか?」
「岡本さんとお話がしたかったのですが……。お忙しそうなので、夜にまた……」
「いえいえ! 店長から話は聞いてますよ! 裏口からどうぞ!」
「で、でも……」
「お呼びしますね!」

 なんだか、大事になってしまった……。

 笑顔で裏口を指差しながら岡本さんに携帯を使ってアポ取りをされてしまえば、このまま自宅に戻るほうが非常識だ。

 私は列に並ぶ女性客から向けられる視線に恐れ慄きながら、恐る恐る裏口に向かった。

「真田」

 私が裏口に到着するのと、内側から扉が開くのはほぼ同時だ。
 名前を呼んでほっと肩を撫で下ろした岡本さんは、ズルズルとその場にしゃがみこんでしまう。

「岡本さん!?」

 どうしたんだろう?
 具合でも、悪いのかな……?

 血相を変えて駆け寄れば、彼の両手が私の背中に回る。

 ――抱きしめられていることに気づいたのは、それからすぐのことだった。

「あのまま……。もう二度と、戻ってこないような気がしていた……」
「……大丈夫ですよ。私はちゃんと、ここにいます」

 私はゆっくりと、彼の背中に両手を回す。

 ずっとこうして、大好きな人と抱き合ってみたかった。
 その願いがなぜか、叶っている。
 なんだか、夢みたい……。

 ふわふわと心地いい気分で満たされた私は、目を閉じてつかの間の幸せを噛みしめる。

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