一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
 指の腹を使って太ももを撫でつけたかと思えば、靴の上から足の爪先を撫でると、含みのある笑みを浮かべた。

「それって、つまり……」
「抱きたい」

 薄々気づいてはいたけれど……。
 誰が聞いているかもわからない場所で、真っ昼間からド直球に誘われるなど思ってもみない。

 恋人同士って、思いを通じ合わせた直後に肌を重ね合うものなの……?

 普通がわからない私は目を白黒させながら頬を赤らめ、慌てふためく。

「そ、そう言うのは……! お仕事が、終わってからにしてください!」
「……言ったな?」

 獲ものが引っかかったとほくそ笑む狩人のような表情をした岡本さんを見て、私はやらかしたと顔面蒼白になる。

「い、今のは……!」
「そうだな。心の準備ができていないのにことを先んじては、関係が壊れてしまう」
「岡本さん……!」
「結婚を前提とした男女交際をするのであれば、名字で呼び続けるのは不適切だ。これからは、名前で呼び合いたいのだが……いいだろうか」

 相手が直也だったら、名前呼びを強要していただろう。

 顔の作りこそ、恐ろしく見えるけれど。
 岡本さんのいいところは、私の意志を尊重してくれることだ。
 私のやることを無条件で受け入れ尊重し、全肯定してくれる。

 だからこそ私は安心して、彼に身を委ねられるのだ。

「私も、ずっと……。名前で呼んでほしかったので……」
「そうか。なら、そうしよう。香菜。これからは彼女として……よろしく頼む」
「――はい。よろしくお願いします。智広さん……」

 面と向かって名前を呼び合うのが、恥ずかしくて仕方がない。

 私達は店内の商品在庫が底をつきそうで大ピンチだと智広さんを呼ぶ妹さんの声を聞くまで、互いのぬくもりを確かめ合うように密着し続けていた。

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