一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
「はいはい! お兄ちゃん! 香菜ちゃんのことが大事なのは伝わるけど、しっかり仲裁しないと駄目でしょ!?」
「俺は香菜だけの味方だ。彼女達の言い分になど、興味はない」
「それはそうだけどね? これじゃいつまで経っても、すれ違ったままだよ! あたし、まとめてもいい?」
「勝手にしろ」
「はーい! 勝手にする~!」

 成り行きを見守っていた妹さんは智広さんに許可を取ると、気を利かせて間に入ってくれた。

「皆さんは、どういった集まりなんですか~?」
「大原直也、被害者の会よ」
「私達、先週まで六股されていたの!」
「本命と結婚することになったから、別れを切り出されて……!」
「直也と結婚するのに、どうしてあんたはその男と付き合ってるのよ!?」
「自分だけ幸せになろうとするなんて、許せません……!」

 女性達は怒り狂ったり泣き叫んだりと忙しないが、私は困惑することしかできない。

 ――直也と結婚の約束なんて、してないのに……。

 幼馴染は先週、彼女達へ一斉に別れを切り出したようだ。
 どう考えても、病院に顔を出した際に話をしたのが原因だろう。

 もしもあのまま、病院に残っていたら……。

 無理やり直也と結婚させられていたかもしれない。
 そう考えるだけでも、身体が震えた。

「どうして香菜ちゃんが、本命だってわかったんですかね?」
「直也は私達に、ずっと相談してたのよ。幼馴染が好きだったのに、大学卒業を機にある日突然行方不明になったことを……」

 恐怖を感じて怯えていた私は、女性の一人がこちらに恨みがましい視線を向けていることに気づき、唇を噛みしめる。

「その女は先週、直也と結婚の約束をしているのよ!」
「あなたが直也を繋ぎ止めておかなかったせいで、私達の人生はめちゃくちゃだわ!」
「どうしてくれるの……? 赤ちゃんは、わたし一人で育てろって言うんですか……! そんなの無理……!」

 こんな形で、智広さんに私の置かれている状況を知られたくなかった。

 私の口から二人きりの時に、そうした過去のトラブルがあったことを打ち明けたかったのに……。

「香菜。母親が倒れて東京の病院に向かった際……顔色が悪かったのは、件の男が原因なのか」

 ――知られてしまったのならば、隠し続けることはできないだろう。

 智広さんは顔色の悪い私を心配そうに見つめ、倒れないように支えてくれている。
 それだけで、充分だ。

 彼の問いかけを無視するわけにはいかないと、私は覚悟を決めて打ち明けた。

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