一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
「……はい。大原直也が私の幼馴染であることは、事実です」
「ほら! やっぱり!」
「その女は、最低最悪の二股女なのよ!」
「あたし達を不幸に陥れた、悪魔……!」
「黙れ」

 女性客が騒ぐ声に苛立ちを隠せない智広さんは、低い声で彼女達を牽制する。

 鋭い目つきの彼に睨まれたら、口を閉じずにはいられないのだろう。
 彼女達は一斉に黙り込む。

「香菜、教えてくれ」

 やっと訪れた沈黙を破るのは、とても勇気のいることだったけれど――。

 愛する人に懇願されたのならば、口を閉ざし続けているわけにもいかない。

 私は一度目を閉じてから、ゆっくりと事実を述べた。

「あの人は私と交際していると周りに言い触らし、さまざまな行動に文句をつけては束縛してきました。でも……」

 幼馴染にされてきたことを思い出すだけでも、辛くて苦しい。
 言葉がうまく、口から出てこないけれど……。

「香菜。大丈夫だ。俺がいる」

 私を支えて気遣ってくれる、智広さんがいるから……。
 小声ではあるけれど。

 こちらを睨みつける女性達にも、事実を伝えられる。

「大原直也と交際したことはありません。ずっと、大嫌いでした。私が愛しているのは、岡本智広さんです」
「じゃあ、なんで直也があなたと付き合うことになったって、私達を振るわけ!?」
「勘違いです。あの人は自分の都合がいいように、解釈する癖があるので……」
「交際したこともないくせに、知ったかぶりしないでよ!」
「誤解させるような言動を、あなたがしたんでしょう!?」

 間違いを正すための言葉さえも塞がれてしまえば、口を動かすことすら不可能だ。

 私はどうやったら信じてもらえるのだろうかと考えるだけでも嫌になって、口元を抑える。

 ずっと怒鳴り声を聞いていたからだろうか。
 苛つくあの人の声を思い出して、気分が悪くなってきた。

「香菜。顔色が悪い。立っているのがつらいなら、横になろう」
「だ、大丈夫……です……。智広さんが一緒なら……」
「無理するな」

 智広さんは私を横抱きにすると、手慣れた手つきで足を使い、イートインスペースの椅子を三つ横並びにして簡易のベッドを作り上げる。

 一番右側の椅子に座った彼は、私の頭を膝の上に乗せて横たわらせると、目元を大きな手で覆った。
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