一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
 お金を貸していたと言う女性と、幼馴染の子を妊娠している妊婦のことだけは、少しだけ気がかりだ。

「お騒がせ、しました……」

 ――その思いが通じたのだろうか。

 数分後、お店を出ていったはずの妊婦とお金を貸していたと言う女性達が、謝罪を言い忘れたことに気づいて戻ってきた。

 最初に顔を合わせた際恐ろしい剣幕だったので、警戒した智広さんが私を後ろから抱きしめるのをやめ、背中に庇う。

 二人の女性は気まずそうな顔をしながら、直也の今後について話し始める。

「直也のことは、この子が首輪を繋いで家から出さないってことで決まったから、安心して」
「あの、お金は……」
「弁護士を通じて、話をつけるわ。あなたも、訴えたいなら連絡して。今までたくさん迷惑を被った分だけ、搾り取りましょう」
「香菜、どうする」

 智広さんに問いかけられた私は、首を振ってその申し出を断った。
 金銭なんて必要ない。
 もう、関わり合いになどなりたくなかったのだ。

 私の人生に、大原直也は必要ない。
 智広さんさえいれば、私は……。
 ほかには何も、必要なかった。

「申し訳ありません。香菜は関わりたくないそうなので、お引取りください」
「そうね。じゃあ、どうなっただけ報告するわ」
「どうしても情報共有がしたいのであれば、私宛にお願いいたします」
「智広さん……」
「香菜を守ると決めたんだ。このくらいは、させてくれ」

 智広さんは女性達に名刺を渡すと、私を安心させるように優しく微笑んだ。

 その笑顔は、二人きりの時だけに見せてほしかったのに……。
 彼女達が直也から彼に乗り換えるなんて言い出したら、勝てるわけがない。
 私は智広さんの背中に手を伸ばして顔を埋めると、取られてたまるものかと無言の抵抗を試みる。

「お幸せに」

 あれほど怒り狂っていた女性は何事もなかったかのように私達へ祝福の言葉を述べると、妊婦を伴って今度こそお店から立ち去った。
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