一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
VS母親
 ――幼馴染の六股疑惑に巻き込まれた日から、一か月後。

「ご両親へ、挨拶に伺いたいのだが……」

 智広さんから両親に会いたいと申し出を受けた私は彼の強い熱意に負けて、渋々実家に顔を出した。

「あらまぁ! 香菜! 直也くんの件、聞いた? ごめんなさいねぇ。借金があるなんて、知らなかったから……」

 余命幾ばくもないと医者から宣告されていたはずの母が顔を合わせて早々、直也の話を笑いながらしてきた時はどうしようかと思った。

 ――人の気も知らないで……。

 精神面は元気そうではあるが、五年前に比べると随分とやせ細り、健康とはほど遠い。
 私と直也を無理やりくっつけようとしていた罰とでも、考えればいいのかな。

「そちらの方は?」

 母が智広さんを気にするので、私は仕方なく彼を紹介する。

「岡本智広さん。私の交際相手」
「どんな方なの?」
「ショコラ・ドゥ・マテリーゼの店主をしております。ショコラティエの岡本と申します。よろしければ、こちらをお召し上がりください」
「ショコ……? まぁ! 高そうなチョコレート!」
「智広さんのお店で販売されている高級チョコ。食事制限があるなら、お父さんに……」
「ないわよ、そんなの! お父さんったら、大騒ぎしていたけど……。結局、誤診だったのよね……」
「誤診?」
「そう! 私、命に別条はないそうよ! 早く孫の顔が見たいわ~。ずっと男の子を育ててみたかったよね~」

 今度こそ男の子がほしいと、智也さんの作ったチョコレートを味わうことなくスナック感覚でパクパクと口に入れる母に、私は堪忍袋の緒が切れた。

 ――智広さんの前で、みっともない姿を見せたくないとか、どうでもいい。

「お母さんは、いつもそうだよね」
「香菜」
「本当に、自分勝手。私はあなたにされてきたことを、一生忘れない! 子どもが生まれても、お母さんには絶対に会わせないから!」

 黙って成り行きを見守っていた父親が私を宥めようと名前を呼ぶけれど、ここで引いたら一生後悔する。

 智広さんの手を離れないようにしっかりと握りしめた私は、そのまま実家を飛び出そうとしたのに――。

「お義母さん」

 手を繋いだ智広さんはその場に留まり、母を呼ぶ。
 あの人に何を言っても無駄であることは、直也の件で散々学習している。
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