一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
 彼がどれほど素晴らしい言葉を並べても、彼女が改心することはないだろう。

 娘の幸せよりも、自分の都合ばかりを優先する女だ。
 このまま縁を繋げて後々トラブルになるくらいなら、断ち切った方がいい。

「香菜さんといずれ生まれてくる子どものことは、責任をもって私が守ります。ご心配には及びません」
「あら、そう? 楽しみだわ~」

 手土産のチョコレートを完食した母は、笑顔で空箱をゴミ箱に投げ捨てた。
 その様子を智広さんも微笑みながら眺めていたけれど、隣にいた私はすぐに気づく。

 目が笑っていないことを……。

 自分が作ったショコラを味わうことなく独り占めした母に、彼も静かに激高しているのかもしれない。

「お義母さんは、香菜よりもお隣の大原さんを大切にしていたそうですね。もうすぐあちらのご家庭には、息子さんが誕生するそうですよ」
「ああ、そうみたいね。借金だけじゃなくて、うちの香菜以外に五人の女性と関係を持っていたんですって? そんな男だと思わなかったわ」
「いえ。香菜さん以外の五人と交際していたようです。彼女は大原さんのように、恋多き女性ではないので……」
「智広さん……」

 智広さんはさりげなく、恋多き男に私はふさわしくないと告げているが、恐らく母には伝わっていないだろう。

 ――それでもいい。

 智広さんが私のことを大切に思っていることさえ伝われば、それで……。

「今後は大原さんのお宅に産まれたお子さんを、香菜さんの息子だと思って愛を注いであげてください」
「六股の末に産まれる子どもに、なぜ私が……」
「息子同然にかわいがっていた方のお子さんですよ。孫のようなものですよね」
「何を言っているの? 私は娘の……」
「助けを求める香菜を守ってこなかったあなたに、今さら母親だと名乗る資格があるとでも?」

 反論があるならこの場で言ってみろと凄んだ智広さんは、とても恐ろしい目つきをして母を睨みつけていたけれど……。

 私との未来を守るための行動だと思えば、その視線すらも愛おしい。

 ――智広さんに出会えて、本当によかった。

「金輪際かかわるな」

 彼に惚れ直し、ぼんやりと熱っぽい視線で見つめていれば、話はこれで終わりだとばかりに彼が母に背を向け歩き出す。

 長居をする理由はない。
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