一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!

「お待たせいたしました~! コーヒーと、紅茶でーす!」
 
 元気よく飲みものを持ってきた女性店員は、男性に睨みつけられても一切態度を変えることなく満面の笑みを浮かべていた。

 二人が兄妹ならば、ああした視線を向けられることは今に始まったことではないのだろう。

「それじゃあ、お兄ちゃん! ごゆっくり~!」

 女性店員は男性にひらひらと手を振ると、対面の椅子を不自然に引いてからカウンターに戻って行った。

 どうして、空いている椅子を動かしたんだろう……?

 その疑問は、あとほど解消される。

「申し訳ない。妹が……」
「いえ……」
「コーヒーと紅茶であれば、どちらがお好きですか」
「いえ、本当にお構いなく……」
「サービスですので、遠慮せずお召し上がりください。飲まないようでしたら、処分いたしますし……」

 せっかく用意して頂いたものに、口をつけないのは申し訳ない。

 私は渋々差し出された二つのカップから紅茶を選択し、自分の方に引き寄せた。

「では、紅茶を……」
「承知いたしました。そちらであれば、黄色と合わせてお飲みになるのがおすすめです」

 男性は私にアドバイスをしながらコーヒーカップ手に取り、空いている対面の席に座る。

 どうやらコーヒーは、彼が飲むことにしたらしい。

 休憩時間なのだろうか?
 解説してくれるのは、ありがたいけれど……。

 仕事の邪魔になっているのではないかと、不安で仕方がなかった。

「では、黄色から頂こうと思います」
「そうですね。ぜひ、感想を聞かせてください」
「わかりました。いただきます」
「召し上がれ」

 男性の許可を得た私は黄色のトリュフをフォークで突き刺し、口に含んだ。

 甘いチョコレートと、まろやかな生クリームにプラスして、すっぱいレモンの味が混ざり合う。

 不思議な味わいなのに、おいしいと感じるのは……。
 長い間、甘いものを食べていなかったからなのか。
 それとも……。
 このトリュフを作ったショコラティエが、天才だから?

「あの……」

 あっと言う間に溶けてなくなってしまったのが、残念でならない。

 口の中に残っている不思議な味わいの余韻に浸るべきか、リセットするために紅茶を飲んでから次のトリュフに手を伸ばすか考えて――。

 新しい味を楽しむために、ティーカップへ口をつけた。

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