一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
「すごく……おいしいです」

 紅茶を一口含んで飲み込めば、レモンの味がまだ残っているからだろうか。
 ストレートティーを飲んでいるはずなのに、違う味がして……。

 興奮を隠しきれなかった私は、思わず感想を口にしていた。

「気に入って頂けましたか」

 男性はその言葉を待っていましたとばかりに、優しく微笑む。

 がっしりとした体格からは想像もつかないほど慈愛に満ちた笑顔を目にしてしまい、気分が高揚していく。

 ――もっと、喜んでほしいと思った。

 ここにはもう、私の自由を奪う幼馴染の姿はない。

 おいしいと感じた気持ちを素直に伝えたって、誰かに咎められることはないんだ!

「はい! 紅茶も! 勧めて頂き、ありがとうございました! 今、口の中が、レモンティーを飲んでいるみたいで……! とっても、幸せな気持ちです!」

 私は必死に唇を動かし、ショコラとスイーツを堪能して感じた思いをぶつける。

「こんな幸せな気持ちになったのは、初めてのことで……!」

 彼が面食らった様子を見せても、お構いなしだ。

 この気持ちは、心に押し止めているべきではない。

 ちゃんと伝えたいと思ったから。
 私は大きく息を吸い込み、勢いよく吐き出した。

「あの! 声をかけていただき、ありがとうございました! 私、あなたのおかげで――」
「ふ……っ!」

 ――不安だった気持ちが吹き飛びました。
 新たな一歩を、踏み出せそうです。

 その言葉が最後まで私の口から紡がれることはない。
 彼が声に出して笑ったからだ。

 今度は私が、面食らう番だった。

「く、ふふ……っ。し、失礼、いたしました……」

 必死に声を押し殺しながらひとしきり笑い終えた彼は、取り繕うように私へ頭を下げると、申し訳なさそうに視線を逸らす。

 鋭い瞳こそ、怖そうに見える人だけれど……。
 案外、感情豊かなんだ……。

 そのギャップに、底なし沼へズブズブ嵌っていくような感覚がした。
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