一途なショコラティエの溺愛にとろけているので、六股幼馴染の束縛はお断り!
「うちのチョコを気に入ってくださったのであれば、またご来店頂きたいのですが」
「もちろんです……!」

 私が二つ返事で元気よく了承すれば、岡本さんはほっとしたように頬を綻ばせる。

 ああ、やっぱり。
 笑顔が爽やかで、素敵な男性だ。

 わたしはドキドキと高鳴る胸を抑えながら、二つ目のお願いが彼の口から紡がれるのを待った。

「……お名前を、お伺いしてもよろしいでしょうか」

 笑顔から無表情に戻った彼は、重苦しい声音で思いがけない提案をする。

 ――そんなことで、いいの?

 肩透かしを食らったあと、私は笑顔で自己紹介をした。

真田 香菜(さなだ かな)。来週から大学生です」
「大学だと……?」

 彼は私が名乗ると、理解できないと苦い顔をする。

 それって、私が老けて見えるってこと? 
 それとも、幼いと言いたいの?

 どっちにしたって、あまりよくはない反応だ。

「高校生の方が、よかったですか?」
「いや。さすがにそれは犯罪だ。あり得ない」
「犯罪……?」
「……忘れてください」
「ちなみにねー?あたしは20歳、お兄ちゃんは24歳だよ!」

 私達のことを見かねたのか、遠くから岡本さんの妹さんが叫ぶ声を耳にする。

 今でも私が小学一年生の時、岡本さんが小学五年生であったことになるのだ。
 年齢がもっと下なら、犯罪だと口にするのも頷ける。

 これだけ年の差があったら……。
 恋愛対象になるのは、難しいかもしれないけど……。

 私は甘くてすっぱいトリュフと、爽やかな笑顔にすっかり心を奪われてしまっていた。

 ――恋人には、なれなくても……。
 常連さんには、なれたらいいな。

「食事をしている途中に話しかけてしまい、申し訳ありませんでした。どうぞ、続きを……」
「あ、はい。ありがとう、ございます」

 そんなことを考えている間に岡本さんに促された私は、お皿の上に残っていたカラフルなトリュフをフォークで掴んでは、口の中に放り込んだ。

 ――楽しい時間は、あっと言う間に過ぎていく。

 おいしいと頬を赤く染めながら、できる限りゆっくりと色んな味を堪能していたけれど――お皿の上に置かれていたトリュフは、全て胃袋の中に消えてしまった。
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