あなたの心が知りたい

 大勢の弔問客が教会に詰めかけ、亡くなった者との最後の別れを惜しんでいる。

 マルグリットはそんな人々から隠れるように、息を潜めてその様子を眺めていた。

 人々が列をつくり、順番に棺の中へ一輪ずつ花を捧げていく。

 棺の傍らには、故人の両親であるアルカラス侯爵夫妻が悲しみに呆然と我を忘れて立っている。
 彼らに代わって弔問客に対応しているのは、彼らのもう一人の息子、故人の双子の兄レジスだった。
 亡くなったのはアルカラス侯爵夫妻の双子の息子の一人、ライオスだ。
 ライオスの悲報が新聞に掲載され、今日葬儀が行われることを知った彼女は、こっそりと一般弔問客に混じってやってきたのだった。
 
(レジス)

 マルグリットは人々の影から、そっと彼の様子を見つめていた。
 もともと無表情な彼は、悲しみに打ちひしがれる両親の横で、粛々と弔問客に頭を下げている。
 彼女がやってきたのは、ライオスを亡くした彼が気になったから。
 
(もうあの人は、この世にいないのね)

 棺に近づくことはできないので、ライオスの死に顔を見ることはない。
 ただ、その死に顔が安らかであることを祈るだけだ。

 マルグリットの頭の中には、ライオスと過ごした日々が蘇っていた。
 
 幸せとは言えなかった日々だが、死んだ彼の冥福を祈るくらいの情はあった。

 何と言っても、彼は一時彼女の夫だったのだから。

 ふと視線を感じ、彼女は物思いから帰った。

(え!)

 一瞬レジスと視線があった気がして、慌てて顔を反らし人影に隠れた。

(うそ、気づかれた? いいえ、遠目だったし大丈夫よ)

 そう思いながらも、彼女は礼拝堂を出て行く人々の影に隠れて、その場を立ち去った。
 
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