氷の王子様は子守り男子

星side 氷の王子様の独白

「まさか、クラスのやつに会うとはな」

 保育園の帰り道。日向の手を引いて歩きながら、さっきのことを思い出す。
 日向たちと思いっきり遊んで、猫なで声で話す姿を、バッチリ見られてしまった。
 別に、悪いことしてる訳じゃない。
 けどそれをクラスのやつに見られるのは、なんか、かなり恥ずかしい。
 坂部知世。今までろくに話したこともなかったけど、あんなところで会うとは、世間狭すぎだろ。
 最初は力ずくで口止めしよう思ったけど、それをやめたのは、坂部の持つ日向の写真がほしかったから────だけじゃない。

「楽しそう、か」

 毎日日向を迎えに行ってる。そんな事情を知ると、ほとんどのやつが、自分の時間がなくなって大変だの、かわいそうだの言ってくる。
 それが、すごく嫌だった。
 日向を迎えに行くのも面倒見るのも、むしろ楽しい。だって日向だぞ。天使だぞ。一緒にいて楽しくないわけないだろ!
 勝手な基準で同情されるのはごめんだ。
 だから学校では、そんな風に言われることのないよう、周りには秘密にしていた。
 けど坂部は、そんな俺の事情を聞いて、すぐに楽しそうって言った。
 そんな風に言われたことなんてなかったから、なんだか新鮮だ。

「もしかすると、あいつも俺と似たようなもんなのかもな」

 すぐに楽しそうって発想が出てくるのもそうだし、そもそもあいつ、スマホにたっくんの写真フォルダなんて作ってる。
 姉の代わりに迎えに来たって言ってたけど、頼まれてやってるだけなら、あんなのは作らねえよな。

「なあ日向。さっき会った、たっくんのおばさん──いや、姉ちゃんのこと、日向は何か知ってるか?」
「たっくんのお姉ちゃん? たまにたっくんをお迎えに来ることがあって、遊んでもらったこともあるよ。たっくんも、お休みの日はたくさん遊んでもらってるんだって」
「そっか」

 やっぱり、坂部も俺と同類みたいなもんだろう。
 それにしても、日向も遊んでもらったことがあったのか。
 今まで保育園で会うことはなかったけど、どのみちいつかは会ってたかもな。
 なんて思っていると、突然日向がこんなことを言ってきた。

「ねえお兄ちゃん。あのお姉ちゃん、お兄ちゃんの彼女なの?」
「かの──!?」

 待て待て。いきなり何を言うかと思えば、俺と坂部が彼女?
 って言うか、どこでそんな言葉覚えた?

「違う違う。だいたい彼女って、意味わかってるのか?」
「うん。すっごく仲良しな人のことでしょ」

 間違ってはいないが、肝心なものが抜けてる気がする。
 けどこのくらいの子供の感覚じゃ、そんなものか。
当分の間、そのままでいてくれよ。
 彼氏ができたなんて言って男を紹介するのは、十年以上は先でいいからな。
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