古本屋の魔女と 孤独の王子様
一方東京では、朝から会議と来客の対応で忙しくしていた副社長の李月が、遅い昼食を副社長室で取っていた。

45階の窓ガラスから見えるのはどんよりとした曇り空。
今にも雨が降りそうだと、空を見つめながら冷えた弁当を口に運ぶ。

そのタイミングでドアをノックする音がして、

「はい…。」
と返事をすると、

「失礼します。」
と秘書の酒井が足早に入って来る。

「お食事中申し訳ありません。今すぐ確認して頂きたい写真がありまして、あの例の本なんですが、こちらでしょうか?」
そう言って、タブレットで写真を見せてくる。

李月は箸を置き、そのタブレットを覗き込むと確かに探していた本だと首を立てに振る。

それよりも…この写真はどこで撮ったものだ?
眩しい太陽光と、背景には青く輝く海が少し映り込む。
「確かにこの本ですが…
ここはどこですか?東京ではなさそうですが?」

「はい、ここは離島なんです。昨日話した図書館員がこの島の出身者で、たまたま実家が古本屋だと言う事を聞いて、見た事ある表紙だと言うので急きょ帰郷してもらったのです。」

それを聞いた途端、李月の心臓は音を立てて動き始める。

「それは…もしかして長崎の五島では⁉︎」
まさか⁉︎と疑りながら、それでも否応無しに何か感じるこの胸騒ぎ…。

聞かずにはいられなくなって、聞いたら最後、全ての歯車が動き出す。

「はい。よく分かりましたね。
長崎の五島と言う島です。東京から片道4時間半ほどかかりますが、今日はお願いして急きょ休んで頂き確認してもらったのです。
なんせ店の鍵を持っているのは彼女しか居なかったので。」

李月が珍しく、目を開き驚きの顔を向けてくる。

秘書の酒井は首を傾げ、何に反応しているのかと副社長の動向を伺う。

「その女性の名は?」

「名前ですか…?私とした事が…聞き忘れていました。なんせ昨日は時間が無くて、飛行機のチケットの本人登録は自身でお願いしましたし…。
ああ、LIMEの名前は…『古本屋の魔女』です。また、変わった名前を付けるなぁと思ったのですが、本人がそう言うので……何故そんな事を?」

秘書の酒井は副社長が、あの図書館員になぜ興味を示すのかと、不思議に思う。

「古本屋の…魔女…。」
李月はそう呟いた後、手のひらを口に当て考え込む。

そんな姿は、この3年間ずっと側で支えていた酒井にとっても、初めて見る姿だった。
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