古本屋の魔女と 孤独の王子様
18時過ぎ、李月は内心ソワソワと浮つく心を抑える為に、何度となく壁掛け時計に目をやる。

そろそろ彼女は空港に到着した頃だろうか…?
運転手の前田と合流し順調に会えたのなら、直通で都心までは30分ほどで来れる筈だ。

先程から降り出した雨が、窓ガラスに打ち付けるように降っている事を、いささか不安に思いながら前田の一報をひたすら待つ。

ブルブル…ブルブル…

会社用のスマホが引き出しで震えるのを感じ、慌てて取り出し確認すると、前田からだった。

彼女に会えたら連絡が欲しいとメッセージを送っていたから、その返事だろうと急ぎタップしアプリを開く。

『お疲れ様です。
あいにくの空模様でこちらの空港が離発着不能になった模様です。着陸空港が変更になりましたので、そちらに迎えに行って参ります。
その為、都内には1時間ほど遅れて到着予定となります。本の受け渡しは後日改めてと言う事でいかがでしょうか?』

8時到着となれば会食と被ってしまう。会食後会うとしても、10時を回ってしまうだろう…。飛行機の長旅で疲れているであろう彼女を、夜遅くまで振り回す訳には行かない…。

『分かりました。
明日、時間の空いた時に彼女の仕事場まで受け取りに伺いたいと、伝えて下さい。』

迷った挙句、そう返信する。

『差し支え無ければ私が本を預かり、後日時間を作ってお会いしては?』

忙しい李月の事を考慮して、前田からそう返信が来るが…。

だけどどうしても、李月は直接彼女から本を受け取りたいと思ってしまう。

『いえ、直接お礼を伝えたいので明日改めて伺います。あと、僕と直接連絡取れるように、彼女の連絡先を繋げて良いか許可を得て下さい。』

こんな、プライベートな事をお願い出来るのは、前田にだけだと李月は思っている。
 
入社して以来、親のような目線で李月の体調を心配してくれるのは、いつだって彼だけだったから…。

『分かりました、そのように伝えます。 
彼女の事につきましては逐一連絡させて頂きますので、御安心下さい。』

何かを感じ取ったのだろうか…。

前田からそう返信が届き、李月の不安を少しだけ解消してくれた。
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