古本屋の魔女と 孤独の王子様
楽しいひとときはあっという間に過ぎ去って、後は食後のコーヒーを飲むだけとなる。

「コーヒー苦手じゃないか?紅茶かジュースに変えてもらおうか?」
とつい、昔の記憶を頼り聞いてしまうと、

「…ありがとう、ございます。」
彼女が頭を下げて来る。
紅茶が運ばれ、いよいよ寂しくなって来た頃、彼女から紙袋を渡されて、

「あの…古本の確認を、して頂けますか?」
そう言われ、俺はやっと本来の目的を思い出す。

「そうだった…ありがとう。」
紙袋から古本を取り出し、中をパラパラと巡って確認する。すると、古本の懐かしい匂いと、後からあの島の海の潮の匂いまでしてくる気がする。

「確かにこの本で間違えない。俺の依頼を引き受けてくれて感謝する。それに仕事をわざわざ休ませてしまい申し訳なかった。これはその謝礼として受け取って欲しい。」
俺はそう伝え、懐から茶封筒を取り出し彼女に渡す。

「これは…?」
彼女は、机に置かれた茶封筒を首を傾げながら見ている。
「少しばかりの謝礼金だから受け取って欲しい。」
と俺が言うと、

「とんでもないです。私こそ飛行機代や運転手付きの車まで出して頂きましたし…それに束の間ですが、実家の貯蔵品の手入れも出来ましたので、逆にお礼を言いたいです。ありがとうございました。」

彼女が頭を下げて、茶封筒を押し返してくる。
「これは君の物だ。」
と、何度か押し問答を繰り返しても頑なに受け取っては貰えず、俺は根負けして一旦茶封筒を引っ込める。

「分かった。一旦引き上げる。」
俺はワザとため息を吐いて、彼女の動揺を探る。
昔からこうと決めたら頑なに譲らなかった。その片鱗が垣間見れて内心俺は嬉しくなった。
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