古本屋の魔女と 孤独の王子様
俺はおもむろに内ポケットとから仕事用のスマホを取り出し、前田さんに電話をする。

直ぐに駆けつけてくれた前田さんに事情を説明し、俺が仕事を片付けるまで、日向をかくまってもらう事にする。
「彼女とちゃんと話しがしたいので、絶対帰らせないようにして下さい。」
前田さんにそう告げて一旦仕事場に戻る。

すると事の他、酒井が上手くやってくれていたようで、何故か戻って来たら婚約は破談になっていて、元婚約者は激怒する父の前で、化粧がボロボロになるまで泣きじゃくり、誰が見ても魔女か!?と思うくらい醜い容姿になっていた。

「何がどうなったんだ?」
副社長室に戻り酒井に聞くと、

「どうって事無いですよ。社長に今までの彼女の一部始終を話したのみです。見るに耐えない態度だったので、良く我慢されてましたよね。」

「いや…私に拒否権は無いですから。」
そう言う俺に酒井は笑う。

「あなたはもっと自分を出していった方がいいと思います。その方が人間らしくて僕は好きです。」

今まで敵だと思っていた奴が、本当は限りなく味方だったのかと言うことを知る。

「私はあなたを見間違っていたようです。…これからは少し本音で話をさせて頂きます。」

「少しですか。」
酒井は笑いながら、日向の事は特に聞く事なく部屋を出て行った。

俺は帰り支度をして、日向の待つ前田の車へと急ぐ。

「すいません。ありがとうございました。」
後部座席に座る日向の姿を見て、俺はほっとする。

「お疲れ様でございました。帰えるのをお止めするのが、なかなか大変でしたよ。」
前田さんがそう言って微笑む。

日向を見ると涙は止まっていたが、少し元気がないようで心配になる。
「今夜は自分の車で帰ります。」
そう前田さんに伝え、日向を自分の車へと連れて行く。

俺が所有する黒のスポーツカーはツーシートで、唯一の趣味と言ってもいいくらいだ。そして子供の頃に憧れていた車種だから、小さな日向にも話して聞かせた事がある。覚えているだろうか…。

その事を少し期待しながら日向を助手席に招待する。
もちろん今まで誰も乗せた事が無い。
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