古本屋の魔女と 孤独の王子様
「腹減っただろ、何か食べに行くか?」
運転席に座りシートベルトを付けながら、何気なく聞いてみる。

「…メガネ返して…。」
さっき公園で泣いていた時に、取り上げた日向のメガネは俺の胸ポケットの中だった。

「メガネはしない方が可愛い。どうせダテだろ?」
出来ればそのままが良いと思い言ってみる。
「無いと困るの…返して。」
意地悪し過ぎて、嫌われたくも無いから素直に返す。

その可愛い顔が隠れてしまう前の、見納めだと思いしばらくその横顔を見つめてしまう。

だけど、日向はメガネをカバンにしまう。
「…婚約者さん大丈夫でしたか?仲直り出来そうでした?」

「戻ったら婚約破棄になってたよ。父が激怒してたから、もう2度と会う事は無いな。」

「それで…副社長さんは良いんですか?後悔しませんか?」

「李月だ。日向、昔みたいに名前でいい。」
咎めるようにそう言って、車を走らせる。

この車は普通の車より車高が低い。それにエンジンが重低音で響くから、日向は少し驚いたようで、シートベルトを握り締めている。

「スポーツカータイプだから、少し振動があるかもしれない。出来るだけ大人しく走るから。」
と、彼女に断りを入れる。

「これ…乗りたいって言ってた車…だよね。」
覚えてるんだと思うと、俺は歓喜にもにた嬉しさが込み上げて来る。

「覚えてたんだ…。」
ハハッと声を出して笑う。
心から笑ったのは、自分でも何年振りだろうと思う程だった。
だからなのか、日向が少しずつ心を開くように話し出す。
「私も…友達と呼べるような人はいなかったから…李月の事はよく、覚えてる…。どこかのお金持ちのお坊ちゃんだって事も…まさか…白建だったなんて…。」

「会社名をちょっと前に改名したから。俺は会う前から分かったよ。『古本屋の魔女』そんなニックネームを付けるのは日向ぐらいだ。』
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