古本屋の魔女と 孤独の王子様
それからドライブスルーでハンバーガーを買って、大都会で1番綺麗だろう景色を探しにドライブへ。

道中、会えなかった15年間を埋めるように、俺達はお互い事を沢山話した。

最終的に東京湾からレインボーブリッジが見渡せる場所まで来て、車を止める。
「ここ、俺が仕事で煮詰まった時に来る場所なんだ。結局、今でも防波堤が1番落ち着く。」
都会の喧騒から逃れたくて1人になりたい時、あの頃の風景を無意識に求めていた。

ハンバーガーを車で食べ終え、少し外へ出て港を日向と歩く。

「今でも…死にたいって思う時が、あるの?」
日向が不意に聞いて来るから俺は少し考え、

「死にたいかは…分からない。
もう考える事をやめたから…ずっと俺は、親の操り人形なんだ。ただの駒の一つだから、自我を無くして生きる方が生きやすい。」

「李月は…可哀想…。
お金持ちで、地位もあって、背も高くて、カッコ良くて…全部持ってるのに、モテモテの人生だろうに…幸せじゃないなんて…。」

誉め殺しか?と思うほど褒められても、嬉しくないのは心をあの場所に置いて来たからなのか…俺はいつだって他人事のように自分を見ていたから。

ただ、日向がそんな風に、俺の事を憐んでくれる事を嬉しいと思ってしまう。
「金があるから幸せだって、はたから見たらそんな風に思えるのかもしれないけど、俺はいつだって孤独で色褪せた世界の中にいるよ。あの頃と何も、変わらない…。」

苦笑いしながら天を仰ぐ。
都会の空気は濁っているのか、辺りが明る過ぎるのか、星は見えない。

日向も俺と同じ様に空を見ている。
「ここは、星が見えないね…。」
日向がポツンと言う。

「星は太陽がないと光らない。自発的に光を放つ星なんてそんなに無いんだ。俺も同じだ…。」

「李月の太陽は…どこにあるんだろう…。」
日向は、昔から不思議な事を言う子だった。本を友とするせいか、たまに幻想的で空想的な、まるで違う世界からこの世界を見ているような感覚がした。

それは俺にとっては心地良く、非現実世界を見せてくれた。
「李月はきっと…太陽なんてなくても光るよ。
大丈夫。今は光り方を忘れているだけで、きっと思い出すから。」
日向がそう言って見上げてくる。小さな日向とは頭ひとつ分背が違う。

「無理だよ。何のために生きているのかさえも分からないのに…。」
俺はそう言って、日向の瞳をよく見たくて無意識に手を伸ばし、前髪をそっと払い退ける。

「李月は、李月の為に生きれば良いんだよ。」
そう言って日向が笑う。

大人になった日向が笑うのを始めて見る。
ドクンと鼓動が動き出す。

思わず抱き寄せたくなる衝動にかられる。
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