古本屋の魔女と 孤独の王子様
「すいません。この本を探してまして、こちらにありますか?」
閉館まじかの時間、背広姿の男性が慌てて飛び込んできた。少し息を切らしている。
「はい…、少々お待ち下さい。」
私は仕事の手を止めて立ち上がり、声の主の方に近付いて行く。

手元を見れば一枚の紙切れ。
ロクに顔も見ずに、その人が持っている紙に手を伸ばす。
「こちらで探してみますので、少々お待ち頂けますか?」
紙を受け取りPCの端末を使い、その本を検索する。

だいぶ古い本らしく持ち出し不可の絶版本だった。
実家の古本屋だったらありそう…ふと、そう思うがここは東京だ。

「申し訳ありません。この本は絶版本になっておりまして、持ち出し不可になります。」
私は、丁寧に説明をする。

「…この図書館にはあるんですか?どうにかして貸出し出来ないですか?」
諦め切れないらしい来客者は、それでもどうにかならないものかと聞いてくる。

「持ち出し不可本については、こちらの2階にある個室の自習室で読む事は可能です。」
淡々とそう伝える。
「じゃあ、例えばコピーとか出来ませんか?コピー機は持ち込みますので。」
少し苛立ち始めた背広の男が、思いがけない提案をして来た。

私の話し方が淡々とし過ぎたのだろうか…。
「少々お待ち頂けますか?上の者を呼んで来ますので。」
さすがに新人の私には対応仕切れないと判断して、前田館長を呼びに行こうと思い立つ。

そこで初めてその背広の男の顔に目を向ける。
見た目判断では30歳前後だろうか、三つ巴のグレーのスーツがよく似合う長身だ。

近くの壁掛け時計をチラリと見ると、閉館時間まで残り10分…。
館内放送で内山館長を呼ぶ。

「お待たせして申し訳けありません。」
館長がバタバタと2階から駆けつけてくれた。しかし…残念ながらコピーも不可だった。

どうしたものかと途方に暮れた背広の男が、上司に相談しますと、スマホで連絡を取っている。
私は一つの可能性を思いながら、館長と顔を見合わせる。

「あの…古本屋の方には問い合わせましたか?この手の本は本屋よりも、古本屋に出回っている事が多いのですが…」
私は我慢が出来ずに一つの可能性を話してみる。

スマホの呼び出しを待っていた背広の男が、一旦切ってこちらに向き合う。
「都内の古本屋には問い合わせしましたが、残念ながら見つからなかったんです。ネットでももちろん探しました。他に…何か良い方法はないですか?」
藁をも掴む勢いで私に聞いて来るから、
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