ひばりの空
腰を落ち着けたかと思えば先程の店員さんにおしぼりとドリンクメニューを渡され、そのままドリンクを注文した。耳をそば立てつつ店員さんとやり取りしていたが、どうやら場は温まっているようだ。
「こちら白井ひばりちゃんです、私たちと同い年の25歳です!」
やっと落ち着いたと思いきや、麻衣が代わりにひばり紹介をした。笑顔で「お願いします」と会釈を添えて言えば、向こうも口々に「お願いします」と返してきた。何とも爽やかな笑顔である。
「一通り自己紹介終わっちゃったの。」
そう麻衣に囁かれた。ここで下手に間を作ればせっかく温まった場が冷めかねない。別に名前が分からなくても話はできるし、そもそも一発で4人の名前を覚えられた気がしない。名前は順番に聞くとして、適当に会話を広げよう。
ひばりはこういった場で会話を広げるのが得意だった。何を頼んだだとか、オススメは何だとか、メニュー表の中にも会話の種は山程ある。会話を回すついでに男性陣の名前を聞いていく。ひばりのドリンクと最初の食べ物がくる頃には、ひばりは男性陣の名前を把握していた。
「じゃあ改めて、乾杯〜!」
皆で乾杯をしてグラスを煽る。なんてことない光景だ。だが、ひばりは男性陣を見てやはり違和感を感じていた。
揃いも揃って黒髪短髪。春先のこの時期、冬服から春服になってくるとボディラインが余計目につくが、全員やたら良い体躯をしている。しかも姿勢も良い。何というか、ビシッとしている。
おまけに既に日焼けしている。この時期に日焼けをするなんて、日常的に長時間外に出ている証拠だ。ひばりの経験則では外の部活動くらいしかそんな風にはならない。
「ねぇ、麻衣。」
「何?」
「男性陣の職業聞いた?」
「えっ…。」
こそっと聞くと固まった麻衣に、これはやったなとひばりは察した。
「公務員だって…。」
「やっぱり…。」
公務員と一口に言っても、役所の職員、教職員だけが当てはまるわけではない。警察官や消防隊員、自衛官だって公務員だ。
十中八九彼らは後者だろう。こんなに精悍な男性が4人も揃っていては、体育教師だと言われても無理がある。
「ごめん、帰る。」
「だよね…。」
ひばりはスマホの画面を見て、わざと大袈裟に「うわっ」と声を上げた。
「ごめんなさい、彼氏に帰って来いって怒られちゃった…。麻衣、とりあえず五千円渡しとくから、足りなかったら明日渡すね。」
「むしろ余るよ…。」
「それならそれで明日返して。」
ひばりは笑顔で麻衣に五千円札を押し付けると、荷物を持って「それじゃあ」と会釈して足早に席を立った。
とんでもなく失礼なことをしている。そう自覚しているからこそ、ひばりは早く帰路につきたかった。
「待って!」
店を出たひばりを1人の男性が追いかけて来た。確か…とひばりは彼の名前を引っ張り出した。
「常田さんでしたっけ、何かありました?」
女性陣にならまだしも男性側から呼び止められる覚えがなくて、ひばりはキョトンとした顔で首を傾げた。
そんなひばりを見て常田はグッと何かを堪えるような顔をした。
「その、彼氏いるって嘘でしょ?」
「え、あぁ…。」
嘘は苦手ではないが得意でもない。もちろん良心が傷つくため、必要ない嘘はつきたくない。店は出たしもういいだろうとひばりは素直にそれを認めた。
「俺ら何かしたかな。」
「いえ、私の問題なので。」
「そう…? もし良かったら、もう少しいない…? あ、でも帰りたいよな、連絡先! ってスマホ置いてきた…。」
何だこの人。ひばりの直球な感想はその一言だった。
「こちら白井ひばりちゃんです、私たちと同い年の25歳です!」
やっと落ち着いたと思いきや、麻衣が代わりにひばり紹介をした。笑顔で「お願いします」と会釈を添えて言えば、向こうも口々に「お願いします」と返してきた。何とも爽やかな笑顔である。
「一通り自己紹介終わっちゃったの。」
そう麻衣に囁かれた。ここで下手に間を作ればせっかく温まった場が冷めかねない。別に名前が分からなくても話はできるし、そもそも一発で4人の名前を覚えられた気がしない。名前は順番に聞くとして、適当に会話を広げよう。
ひばりはこういった場で会話を広げるのが得意だった。何を頼んだだとか、オススメは何だとか、メニュー表の中にも会話の種は山程ある。会話を回すついでに男性陣の名前を聞いていく。ひばりのドリンクと最初の食べ物がくる頃には、ひばりは男性陣の名前を把握していた。
「じゃあ改めて、乾杯〜!」
皆で乾杯をしてグラスを煽る。なんてことない光景だ。だが、ひばりは男性陣を見てやはり違和感を感じていた。
揃いも揃って黒髪短髪。春先のこの時期、冬服から春服になってくるとボディラインが余計目につくが、全員やたら良い体躯をしている。しかも姿勢も良い。何というか、ビシッとしている。
おまけに既に日焼けしている。この時期に日焼けをするなんて、日常的に長時間外に出ている証拠だ。ひばりの経験則では外の部活動くらいしかそんな風にはならない。
「ねぇ、麻衣。」
「何?」
「男性陣の職業聞いた?」
「えっ…。」
こそっと聞くと固まった麻衣に、これはやったなとひばりは察した。
「公務員だって…。」
「やっぱり…。」
公務員と一口に言っても、役所の職員、教職員だけが当てはまるわけではない。警察官や消防隊員、自衛官だって公務員だ。
十中八九彼らは後者だろう。こんなに精悍な男性が4人も揃っていては、体育教師だと言われても無理がある。
「ごめん、帰る。」
「だよね…。」
ひばりはスマホの画面を見て、わざと大袈裟に「うわっ」と声を上げた。
「ごめんなさい、彼氏に帰って来いって怒られちゃった…。麻衣、とりあえず五千円渡しとくから、足りなかったら明日渡すね。」
「むしろ余るよ…。」
「それならそれで明日返して。」
ひばりは笑顔で麻衣に五千円札を押し付けると、荷物を持って「それじゃあ」と会釈して足早に席を立った。
とんでもなく失礼なことをしている。そう自覚しているからこそ、ひばりは早く帰路につきたかった。
「待って!」
店を出たひばりを1人の男性が追いかけて来た。確か…とひばりは彼の名前を引っ張り出した。
「常田さんでしたっけ、何かありました?」
女性陣にならまだしも男性側から呼び止められる覚えがなくて、ひばりはキョトンとした顔で首を傾げた。
そんなひばりを見て常田はグッと何かを堪えるような顔をした。
「その、彼氏いるって嘘でしょ?」
「え、あぁ…。」
嘘は苦手ではないが得意でもない。もちろん良心が傷つくため、必要ない嘘はつきたくない。店は出たしもういいだろうとひばりは素直にそれを認めた。
「俺ら何かしたかな。」
「いえ、私の問題なので。」
「そう…? もし良かったら、もう少しいない…? あ、でも帰りたいよな、連絡先! ってスマホ置いてきた…。」
何だこの人。ひばりの直球な感想はその一言だった。