【完結】婚約破棄された男装令嬢ヴァレンティーナは明日を強く生きる!そして愛を知る

 出迎えられるラファエルを見ていたヴァレンティーナだったが、幌の後ろにメイド二人が来るのを見てアリスを起こす。
 ルークも自然に目をこすり、起きた。

「ルーク! あぁ無事でよかった」

 ルークが皆に、大事に思われているのが伝わってくる。

「……ごめんなさい、ごめんなさい」

「いいよ! さぁもうお屋敷に着いたんだよ! 馬車は馬小屋へ連れてってもらうから、お客様もどうぞお降りになってください!」

「お世話になります!」

 屋敷から出てきた使用人達も、豪雨でみるみるずぶ濡れになっていく。
 ヴァレンティーナとアリスも慌てて、それぞれのトランクを持ってメイド達の後を追う。

「ヴァレン! 俺もすぐに行くから、待っててくれ!」

「わかった、馬車を頼む! 気を付けて!」

 暗いなかでもわかる、屋敷の大きさ。
 そして使用人の数。

 ラファエルは、どういう身分なのだろうか?

 とりあえず屋敷の玄関についた。
 古いが、磨き上げられた立派な洋館のドアだ。
 
「さぁ、どうぞ中へ。すぐにタオルをお持ちしますね」

 やっと嵐から逃れられた、と流石にヴァレンティーナも息を吐く。

「アリス、大丈夫か?」

「えぇ! 私は睡眠もとってしまいましたし、お腹が空いたくらいです」

「俺も腹が減ったなぁ」

「ルーク! せっかくの御馳走も冷めてしまったのは誰の……ん、もう、仕方ないわね」

 タオルを持ってきた中年メイドが怒りかけたが、ラファエルの言いつけを守るためか呆れたように溜息をついた。
 きっとラファエルの誕生日パーティーの準備は、途中でルークの捜索になってしまい中止になったのだろう。

「お客様、タオルをどうぞ。すぐに温かいお部屋へご案内致します」

「ありがとう。夜分にすみません。お世話になります」

 タオルを渡してきたメイドは、ヴァレンティーナの美貌にドキリとした顔をする。

「おっし! 馬車はこれで大丈夫だ。みんなも、大丈夫だったか?」

 重い玄関が開いて、ラファエルが入ってくる。
 すぐにタオルを受け取ったが、びしょ濡れだ。
 
「ラファエル様、身体が冷えておりますよね。お部屋のお風呂はすぐに入れるようにしてあるのですが……」

「俺の部屋の風呂は二人に先に使わせてやってくれ。俺はみんなの方を使うから」

「いや、しかしラファエル殿、君の方が」

「命の恩人が何を遠慮する! 着替えはあるか? 俺の服なら着れるだろう。好きなの着ていいから。ドナさん、二人を頼むよ」

 ドナと呼ばれたメイドが頷く。
 
「もう23時か……腹減ったよな?」

 入ってすぐにある広間にあった大時計を見て、ラファエルが二人に聞いた。

「はぁい! それはもう、すごく!」

 ヴァレンティーナより先に、アリスが笑顔で言う。
 ルークも頷いたのでラファエルが頭を撫でた。
 
「そうだよな! ルークの誕生日プレゼントもあるし、作りかけの御馳走もある。まぁ夜中だからささやかに茶会でもするか! ニナさん、よろしく」

「はい、ラファエル様」

 二ナと呼ばれたメイドは去って行く。
 調理場へ行くのだろう。

「じゃあ、また後で」

 ラファエルが微笑んだ。
 温かい屋敷に入り、少し安心したヴァレンティーナの心。
 濡れた髪を掻き上げたラファエルは健康的に日に焼け、眉毛は凛々しく、瞳は琥珀のように金色に輝く。
 目鼻立ちの整って、微笑みは優しく精悍な美青年だという事に気が付いた。

 
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