【完結】婚約破棄された男装令嬢ヴァレンティーナは明日を強く生きる!そして愛を知る

二刀流令嬢・ラファエルとの話にワクワクする


 疲れて空腹の皆が、楽しそうに茶会を始めた。

「あぁ腹が減った! 俺の大好きな串焼き! 美味そうだ!」

 そういうラファエルの前の皿には、ぐちゃぐちゃになった紫リンゴと豚肉の串焼きが盛られていた。
 彼はどんな御馳走よりも前に、ルークからのプレゼントを一番に食べたのだ。

「うん! 美味いぞ! ルーク、ありがとうな」

「ラファエル……ごめんね……俺がパーティーをぶち壊して……ごめんなさい」

 下を向くルークの頭を、くしゃっと撫でてまた串焼きを頬張る。

「ぶち壊されてなんかいるものか、パーティーなんて明日すればいいんだ。悪いのは罠を張った野盗だ。今回のことで更に俺は家族に恵まれている幸せ者だとわかったさ。でもなルーク、お前もお前を必死に探してくれた人達に、精一杯感謝してしっかり御礼をするんだぞ」

「うん……うん!」

 しばらく涙を拭って笑っていたが、ルークはすぐにうつらうつらし始めて隣に座ったヴァレンティーナにもたれかかる。
 メイドのドナとニナも母親ではなさそうだった。

「ルークの御両親は……」

「赤ん坊の頃、この屋敷の玄関に……母親の手紙と共にルークは屋敷にやってきた。みんなの可愛い子供で、俺の弟でもある」

 ラファエルが自分の着ていたカーディガンを、ルークにかけた。
 
「そうか。彼が皆に愛されているのが、よくわかる」

 ルークの寝顔は、穏やかで安心しきっている。
 この村で、ラファエルの家は母親が最後に託した場所だった。
 そしてこの男の子は、健やかに育っている。
 アリスを見つけた時の事を、ヴァレンティーナは思い出した。

 アリスを助けたいと願ったのは自分自身だが、人を一人背負うのは並大抵のことではない。
 あの時の母と、屋敷の大人達の愛。
 そしてこの屋敷のラファエルと皆の愛を重ね合わせ、ヴァレンティーナは心が熱くなるのを感じた。

 ルークは腕っぷしのいい男が、微笑みながら担ぎ上げて運んでいった。

「今日は本当にありがとうな。何度御礼を言っても足りないよ」

 二人の視線が交わる。
 氷のようだと言われる蒼い瞳と、煌めく琥珀の瞳。 

「こちらこそ、二人で山越えをしていたら遭難していたかもしれない……助けて頂いたのはこちらの方だ」

「あそこの山は、低そうに見えるが二段階で高さが出る山でなかなか越えるのに時間がかかる。それに今回の嵐はまるで想定外だ。今夜から大荒れになるとはな……最悪な偶然が重なってしまったけど、結果よかった。今日明日……いたいだけ、ゆっくり屋敷で過ごしてくれ」

「嵐がおさまるまで~お願いします~!」

 アリスが美味しそうに、ハムのサラダを頬張りながら言う。

「アリス」

「あはは! あぁ、もちろんだ! アリス、長居してってくれ! ヴァレン、酒ならウイスキーもあるし珍しいコメから作った酒もあるぞ。飲めよ」

「いえ、私は次は紅茶をいただきます」

「酒は苦手か? それともやはり、ヴァレン。お前は剣を志す者なんだろう……?」

 ラファエルは嬉しそうに微笑み、ヴァレンティーナは少し身構える。

「……何故、そうだと?」

「風呂上がりの夜中の茶会でも帯剣しているし、この部屋に入った時に、広さを確認する目が剣士のそれだ。それに何よりあの野盗は剣が立つことで恐れられている奴らだ。それをたった二人で返り討ちにするとは……かなりの強者(つわもの)だ」
 
 野盗成敗の話はいいとして、帯剣や部屋に入るなり剣を振るえるかの確認を知られてしまったとヴァレンティーナは内心焦る。
 アリスは当然のように剣を置いてきていた。
 焦るというよりは、恥ずかしさで頬が熱くなりそうだった。

「し、失礼をした。長年のクセで……つい」

「何故だ? 俺は嬉しいんだ。久々に剣士に出逢えたからな」

「えっ……」

「俺も剣を志す者ってわけだ」

 そう言ったラファエルは、ソファに立てかけた自分の剣を撫でる。

「ラファエル、やはり君もか!」

「あぁ。明日は手合わせ願いたい!」

「て、手合わせ……?」

 ヴァレンティーナの瞳が、キラキラと輝く。
 まるで少女が、薔薇の花束を受け取った時のようだった。

 屋敷ではもうアリスが、ヴァレンティーナが手加減をして手加減をして手合わせできる程度。
 令嬢である身のヴァレンティーナと、本気の手合わせをする剣士など誰もいなかった。

「ヴァレン? ……気を悪くしたか……?」

「えっ!! いや、いや……是非願いたい!!」

 嬉しさで一瞬止まったヴァレンティーナを見て、ラファエルは困らせたと思ったようだ。

「ほ、本気で頼むぞ!」

「もちろんだ」

「そうか! そうか……! あぁ楽しみだな!」

 子供のように笑ってしまいそうなのを、ヴァレンティーナはなんとか誤魔化す。
 
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