【完結】婚約破棄された男装令嬢ヴァレンティーナは明日を強く生きる!そして愛を知る
二刀流令嬢・ラファエルの村を見学する
昼間だというのに、雨は降り続き屋敷の中も薄暗い。
アリスと別れて玄関へ向かうと、笑顔のラファエルが待っていた。
「雨の中の見回りだ。カッパを着た方がいいぞ」
「なんだか嬉しそうだな」
「そうか? まぁヴァレンに俺の村を見せることができるのが嬉しいのかもな」
「そ、それが嬉しいのか……。ゴホン……ほ、他のみんなは?」
そう言われて、また変な動悸がするのをごまかすために呆れてみる。
「あいにくと、皆忙しくてね。二人で行こう」
渡されたカッパを着ると、ラファエルの匂いがした。
きっと普段はこれがラファエルのカッパなんだろう。
「馬車だと行先が限定されてしまう。馬に二人で乗ってくれるか?」
「えっ……」
「えっ? 何か問題が?」
「いや、二人で乗って……馬が大丈夫だろうかと」
「俺が二人なら馬が疲れるだろうが、ヴァレンとなら大丈夫だろう」
「そ、そうか……」
荷物を抱えたメイドのドナとアリスが通りかかって『いってらっしゃーい』と言われる。
アリスはもうすっかり馴染んだように楽しそうだ。
「アリスはもう、ずっと此処で働いているみたいだなぁ。メイド服も似合ってる」
「そうだな……」
「じゃあ行こう」
「あぁ」
重たい玄関を開ければ、まだ雨は酷い。
「はは、すげー雨だな!」
「ふっ、雨で喜ぶ子供のようだ」
「言ったな!? あそこが馬小屋だ! ヨーイドン!」
「あ、こらラファエル! ずるいぞ!」
大雨の中をラファエルは飛び出して、ヴァレンティーナも駆け出す。
ブーツが泥を跳ねて、雨が顔に当たって、ラファエルが笑って、ヴァレンティーナも笑った。
馬車でヴァレンティーナの馬に餌をやり撫でた後、麓の自警団から連れ帰ってきた馬を改めて紹介される。
「茶色い毛が飼い主そっくりだな」
「そうだ。俺達は心の兄弟だからな。さぁ行くぞ。ほら」
軽やかに跨ったラファエルから、手を差し伸べられる。
「えっ」
「ん?」
「いや、それだと私が前になる」
「ヴァレンの方が俺より小柄だし、鞍は一人分だからヴァレンが座ったらいい」
「お、お気遣いなく」
「ルークもこうやって乗ってる。気にするなよ」
「ルークと一緒……そ、そうか。わはは!」
「あはは! さぁ」
ヒョイとまた強く、そして優しく馬に乗せられたヴァレンティーナ。
手綱を引く手が、ヴァレンティーナを包むように回される。
「じゃあ行こう」
「あ、あぁ……」
雨のなか、ゆっくりと馬が進む。
ヴァレンティーナは乗馬ももちろん得意で、馬は好きだ。
早く駆けることも、障害物を避けることも、もちろん馬に乗っての剣術も得意であった。
だが、男に後ろから抱かれて馬に乗るなど初めての経験だった。