【完結】婚約破棄された男装令嬢ヴァレンティーナは明日を強く生きる!そして愛を知る
 呆然としてしまっていたヴァレンティーナは、額を押さえてレイピアをまた腰に差す。

「……すまなかった……揉め事を起こして……私は、取り返しのつかないことを……」

「いいんだ。俺が情けないところを見せたな……」

 二人ともが、傷ついたような顔をして見つめ合う。

「……迷惑をかけないうちに出て行くよ……」

「何を言う。あれはこの一帯の辺境伯のドラ息子の部下だ。部下と言っても、ただのお友達風情のチンピラ気取りだ……ヴァレンが言い返してくれて、俺も目が覚めたよ。なぁなぁにと……思っていたんだが」

「それは村のみんなのためだろう」

「そう」

「それを……私が……剣を自分の感情のままに……すまない」

「嬉しかったよ」

「……え?」

「俺のために怒ってくれて、嬉しかった」

 雨が上がって、夕陽が登ってきた。
 向かい合う二人に、雲が割れて夕陽が差してくる。
 
「俺もしっかり立ち向かうよ。ありがとう、ヴァレン」

「すぐにでも私は出て行ったほうがいいだろう……帰って支度を」

「家に帰ろう。今日こそパーティーだ」

「いや、でも……」

「さぁ。帰ろう」

 また、温かな大きな手。
 夕陽の中、また二人は馬に乗って歩き出す。

「此処の辺境伯は少し病でふせってて……ドラ息子が自分がもうすぐ跡継ぎだって、んでこの土地がもったいね~! 俺の代で取り戻す! って息巻いてんだ」

「……そんな」

「土地だけ取り戻しても、そこに住む人達は反発し、住む者がいなくなれば……此処はただの荒野になるだろう」

 ヴァレンティーナが家を出る時に、使用人が全員家を出た事を思い出した。

「辺境伯には世話になってるし、あまり事を荒立てたくなかったんだが……」

「あんな誹謗をよく言えたものだ」

「……あのさ、聞いてくれるか……?」

 帰り道も、同じくラファエルのぬくもりを感じる。
 
「どうした……?」

「あいつらが言ってた事……意味合い的にはほんとで……女性がって」

「……女性が苦手だと……?」

「あぁ。でも女性が苦手ってわけじゃないんだ……。俺の一言でさ……父さんが拒否することを決めたって……みんな武勇伝みたいに言ってる」

「ああ」

 幼いラファエルの勇姿を思い浮かべる。

「でも俺は……俺がそんな事を言わなければよかったんだろうか? って思う日々でもあった。やっぱり相当な苦労があったから。父さんが早く死んだのも……没落して慣れない作業をしたからだろうかって……よく思うんだ」

「ラファエル……」

「一番ショックだったのは、没落直後に母さんが出て行った事だ。泣く妹まで置いて……」

「え……」

「仲が良い夫婦だったんだ。でも剣はそんなに好きじゃなさそうだった。でも父さんも俺達のことも愛してると言っていた……なのに、母さんは出て行ったんだ……。だから俺は……女の人というか……愛とか……よく……わからないと思って……」

 馬はゆっくりと歩く――。
 逞しいラファエルの胸元と腕の中で聞いているのに、絞り出す声は当時の少年のままのような。
 寂しい寂しい……声に聞こえる。

 その声を聴いて、ヴァレンティーナの傷ついた少女の心も一緒に涙を流す。

 父と、母の、愛を見て、愛に絶望した。

 その心の傷が、ヴァレンティーナにはよくわかった。

「わかるよ。ラファエル」

 ヴァレンティーナは手綱を持つラファエルの手に、自分の手を添える。

 この男は、自分と同じように心に傷を負っていた……。
 愛が信じられないと思っている。
 
 それはヴァレンティーナもそうだった。
 でも今……。

 ラファエルが、ヴァレンティーナの手を握る。
 温かい手。

 矛盾する事が心で起き始めている事を、ヴァレンティーナは気付く。
 ラファエルに惹かれ始めている事を……。

 信じられなかった愛が……自分の中で疼き始めている。

「君の心の傷が痛いほどわかる……君の心の傷が癒えるように心から願っている」

 でも自分は男として彼と出逢った。
 それで良かったのだ。
 終わるしかない、想い。
 
「ヴァレン……でもな。俺は変わろうと思い始めてきたんだ……」

「変わる……?」

「あぁ、俺は……」

 ヴァレンティーナと同じように、ラファエルの心にも変化が……?
 ラファエルが言いかけた、その時。

「兄様ーーーー!! ラファエル兄様~~~~!!」

 ものすごい勢いで馬に乗ってこちらに来る女性が見えた。
 
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