【完結】婚約破棄された男装令嬢ヴァレンティーナは明日を強く生きる!そして愛を知る
「アリス?」
「アリスに惚れて、こ、婚約したのではないのか!?」
「え!? 俺が惚れてるのはヴァレンだけだが」
驚き、当然のようには言うラファエル。
「なっ……!」
「えっ? 俺は、すごく……ヴァレンに好きな気持ちを伝えていたつもりなんだけど……」
「えっ」
「ごめん……剣ばっかなのと、夕方に話したトラウマで、女性経験が全くないのは本当なんだ。だから、全然うまくない……」
「え、そんな……私だって……なにも……下手くそどころか」
初めての恋に、戸惑い……身動きすらできなかった――。
「でも俺は勝手に俺のこと、ちょっとは好きになってくれてるんじゃないかって……思ってたんだけど」
「……え……」
「俺の、うぬぼれ……?」
グッとラファエルが顔を近づけた。
二人の息がかかってキスしてしまいそうな、距離。
雄々しくなったり、可愛く聞いてみたり……ギャップが心臓に響く。
「ラファエル……私は……あの……」
うぬぼれな事があるだろうか?
ちょっとどころではない。
好きで好きで、たまらない……。
でも言葉にならないヴァレンティーナ。
自分の感情を言葉にできないなんて事も、初めてだった。
「アリスに、ヴァレンにハッキリ言えと怒られて……部屋に行ったんだけど留守のようで……眠ったのかとも思ったんだが、なんとなく道場にいそうな気がしたんだ」
もしもその直感で動いていなかったら、ヴァレンティーナは助かっていなかった。
魂で惹かれ結び合う力を、お互いに無意識に感じているようだ。
「は、は、ハッキリ……とは?」
「……えっと……ヴァレン。出逢ってまだ1日だけど……貴女といると、俺はとても楽しくて……すごく幸せで……」
それはヴァレンティーナもそうだった。
ラファエルとの時間は、今までの人生で一番といっていいほど楽しかった。
「貴女の剣の素晴らしさに、俺は心を奪われた」
女が剣を振り、どれだけ罵倒されただろう。
剣を振るために男装し、それも嘲笑され……。
それを、二刀流の剣豪に認められた事だけで目が潤む。
「……ラファエル……」
「……ヴァレン……」
ピタリと歩みを止めて、スーッとラファエルは息を吸った。
真剣な瞳で見つめられて、それだけで心臓が高鳴る。
「ずっと貴女の事を考えてしまう。こんな感情は初めてで……すごく好きだ。愛してる、ヴァレン。どうか俺と結婚してほしい」
「ひゃっ!?」
降り注ぐ、愛の言葉。
自分でもどこから声が出ているのかわからない悲鳴が出てしまう。
「さっきから、めちゃくちゃ可愛いんだけど……」
「ば、ばか……さっきから心臓がもたない」
「そうなの……? 可愛いよヴァレン。とても」
「……ヴァ……ヴァレンティーナというんだ……本当の名前は……」
ラファエルに教えたくなった。
彼に名前を呼んでほしくて、つい言ってしまった。
「ヴァレンが男として振る舞いたいのなら、聞くのは野暮かなと思ってた……美しく気高い名前だね……ぴったりだよ」
「そ、そんなことは」
「ヴァレンティーナ……答えは?」
「でも……私は……何もできない……無能者だ……」
「……本当にそう思っている? ……何もかも完璧なのに……」
「ラファエル……」
「……好きだ……ヴァレンティーナ……」
抱き上げられたまま、鼻を寄せられる。
自分には似合わないと、思って絵本を閉じたお姫様の童話のよう。
拒絶する答えなどない、そっと瞳を閉じて……熱い唇が合わさった。
「ん……っ……」
「……綺麗で可愛い、そして強い俺のヴァレンティーナ。好きだよ」
甘い囁きに、優しい瞳。
「や、やめろ……ラファエル……」
暗い夜でも、輝いて見える愛する人の顔がすぐ近くにある。
「何故? 君を愛する俺は嫌い?」
「だから心臓がもたない……」
「俺のこと……好き?」
「……すごく……好き……」
こんな薄暗さでも、ラファエルからの視線が恥ずかしくなって両手で顔を隠す。
「……めちゃくちゃ嬉しい……んでめちゃくちゃ可愛い」
「し、心臓が破裂しそうだ」
「俺もさ。どんな剣豪を相手にした時よりも心臓がバクバクしてる」
「私もだ……こんなの……」
「可愛いヴァレンティーナ……このまま、俺の部屋へ連れて行くよ。俺の部屋で泥を落とそう」
「で、でも……」
「俺は離れたくない、もう二度と一人にしないから」
ラファエルは、どんどん屋敷に向かって歩いて行く。
「しかし……」
「あいつらの事は、みんなに任せて今は君の傷を……」
「い、いやラファエル、私は大丈夫だ」
「ん?」
「奴らのことを縛り上げ、証拠も持ってすぐに駐在所に行こう。今なら撒いた油も残っている」
「それは、そうだが……」
ラファエルもそれは考えている。
だが殴られ数人に犯されそうになった恋人を残していけるか? と自問自答した。
通報は屋敷の皆に任せて、ヴァレンティーナを優先したいと思ったのも当然のことである。