【完結】婚約破棄された男装令嬢ヴァレンティーナは明日を強く生きる!そして愛を知る

二刀流令嬢は愛を知り、明日を生きる


 「ん……」

 次の日……もう夕方だ。
 朝と夜の逆転した日々を送っている。

 だが、そんな事よりもヴァレンティーナは、裸のままラファエルの逞しい腕に抱かれている事がまだ信じられずにいた。
 胸元で揺れた、道場の鍵を握りしめる。

「……ヴァレン……ヴァレンティーナ……すき……かわいい……」

「……寝言……?」

 まだ眠っている彼の顔を見つめる。
 寝顔は純真無垢な少年。
 でも部屋に入ってから、ヴァレンティーナを求めたラファエルの男。
 猛々しい熱っぽさ。
 激しくも、優しい愛撫……。
 思い出すと、顔が火照ってしまう。

「ラファエル……私も好きだ……」

「……ヴァレンティーナ、俺も愛している」

「きゃ! お、起きていたのか!?」

「そりゃ、可愛い呟きが聞こえたら起きるさ」

 頬を染めるヴァレンティーナを、笑って抱き締める。
 男達に打たれた頬も、拘束された腕も胸元も、ラファエルが愛して上書きしてくれた……。

「俺がアリスに惚れてたと思ってただなんて……鈍感にもほどがあるよ」

「だって……それは仕方ないだろう……」

 ラファエルがヴァレンティーナの胸元の鍵に触れる。
 これは彼なりの最大の愛の証しだったそうなのだ。
 道場の鍵は確かに大切な物。
 でもヴァレンティーナは剣士としての信頼だとしか思えなかった。
 それはお互いに、キスをしながら謝りあった……。

「しかも自分の自信を失うだなんて……何もできないだなんて、そんな事あるわけがないのに」

「ラファエルがあまりに完璧だから、なんだか自分が情けなくなってしまったんだよ」

「完璧? 惚れた女性の前だから、なんとかカッコつけてただけさ。でも今までの頑張りをヴァレンティーナが認めてくれたのなら……あぁ、全て報われるよ」

 過去を振り返るような顔をするラファエル。

「ラファエル……」

「俺のヴァレンティーナ、男として振る舞っている時もすごく魅力的だった。でも男も女も関係ない……ヴァレンティーナらしいのが一番だよ」

「もう……嬉しい事を言ってくれる」

 柔らかい彼の髪に触れると、ラファエルはひだまりのように笑う。
 幸福が二人を包む。
 少し気になったのが、ラファエルの二刀流。

「……ラファエル、私達どこかで逢ったことがあるか……? どこか剣で各地をまわった事は、ある?」

「ん……? まだ親父が辺境伯だった時に、剣術大会や交流会で各地を巡った事はあったんだけど……」

「交流会……」

 オレンジの香り……無邪気な男の子の笑顔……二刀流。
 ヴァレンティーナの脳内に、かすかに残る思い出。

「うーん……覚えてるのは……少し仲良くなった女の子がいたんだけど、あの子も二刀流だったんだよな……どこかの伯爵令嬢で……とても可愛くて強かった」

 ドキッとした。
 そうだ。
 また会いたいと、初めて思った男の子。
 茶色い髪の……琥珀色の瞳……まさにラファエルを子供にしたような……。
 少しの時間の交流だったのに、すごく惹かれて……。

 あの頃はまだ、母が生きていて女の子の格好をしていた。
 
 でも、母の死とそれからの壮絶な変化で記憶の片隅に仕舞い込んだ。

 会いたいと思う気持ちが叶うわけもなく、身を焦がす辛さでしかなかったから――。

 母を失って、二度と会えないという想いは、辛い呪いにしかならない……。
 だから記憶を閉じ込めた。
 忘れるために、男装をして、剣に更に打ち込んだ。

 もしかすると……あの男の子は……。
 
「その子にまた会いたかった?」

「初恋……だったかもな。親父に聞くのも恥ずかしくて、しっかりどこの家か聞かなかったのを後悔した……なぁ、恋人の前で他の女の子の話をしたらダメじゃない?」

「ふふ……子供の頃の話じゃないか」

「そう……? あの子も綺麗な黒髪だったな……もちろんヴァレンティーナが一番綺麗だよ」

 ラファエルは何か思うように、ヴァレンティーナの黒髪を撫でる。
 初恋と聞いて、内心少し嬉しい。
 もちろんただの人違いかもしれないが。
 
「でも、今の俺は二刀流を封印してしまったようなものだ。あの子が見たらがっかりするかもな」

「……がっかりなんてするものか、その子もきっと……今の君を尊敬すると思う」

「ありがとう。でも俺は君に愛されれば、それで十分だよ」

「……私もだ」

 キスを何度もして、二人で微笑む。
 段々と、深く舌が絡み合う。
 ラファエルの手が、ヴァレンティーナの身体を撫でる。
 じわりとまた、快感の花が咲いていく。
 
「んっ……恥ずかしい……ラファエル……あ、ダメだ……そこは……」

「ヴァレンティーナの恥ずかしがる姿が、とても愛しいんだ。俺だけのものだから……」

 剣を握る逞しい手で、今はヴァレンティーナを愛する。
 ラファエルの吐息に、男の熱っぽさが交じる。
 触れられた身体は、すぐにまた快楽に溺れそうになってしまう。

「き、君は、ずいぶん慣れているんだな」

「え? なんでそう思う?」

「だ、だって……キスも……あの……あれも……随分と……手慣れているようで」

「全部俺も初めてだよ」

「そ、そ、そうか……そう……ゴホン」

 なんだかすごく嬉しい気持ちと、お互い初めてなのにラファエルに全て導かれている事に恥ずかしさも感じる。
 どうして、こんなに上手なのか……とラファエルを見つめた。

「ヴァレンティーナにも、よくなってほしくて頑張ってる」

「そ、そういう事を言うな!」

「えへへ」

 何もかもが初めてなのに、感じやすい自分を思うと恥ずかしさでまた火照ってしまう。

「昨日は何度も求めてしまったけど……身体は痛くないかい……?」

「大丈夫だ……」

 ヴァレンティーナの白い胸元に咲いた紅い痕に、ラファエルが口づけた。

「また抱きたいよ……愛しいヴァレンティーナ」

「んっ……もう……ラファエル……」

「好きだ、ヴァレンティーナ……」

「あっ……ダメ……」

「可愛いよ……ほら、もうこんなに溢れてる……」

「言うな……んっ……」

「俺の剣士ヴァレンティーナ……君の全てを愛するよ」

「ラファエル……私もだ……愛してる」
 
 ヴァレンティーナは、まだ自分の素性を隠している。
 でも、ラファエルは彼女の過去を、一切聞かなかった。

 目の前の剣だけに集中するように、目の前にいるヴァレンティーナへ愛だけを注いだ。
 
 少しずつ打ち明けよう……婚約破棄された二刀流令嬢の話を……。
 
 二人の愛はより深く、二人の剣も強くなる。
 
 そして……。

 それぞれの二刀流の今後の道。
 ラファエルの村に残る、領地問題も片付けなければならない。

 婚約破棄をした白豚息子は、金髪令嬢との関係がもつれて刺傷事件になり追放されたという。

 ヴァレンティーナの故郷、サンドラス家は没落。
 父は誰かに殺害されるという凄惨な死を遂げ、妹はどこかへ拐われて行方不明に……悲惨な末路となった。
 
 その話はヴァレンティーナの耳にも届く事になる。

 これからの二人には、まだまだ試練は起きるだろう。
 それでも愛を知ってより強くなったヴァレンティーナは、ラファエルと共に乗り越えていく。

 二刀流令嬢は愛を知って、明日を強く生きていく――。



 「婚約破棄された男装令嬢ヴァレンティーナは明日を強く生きる!そして愛を知る」・完
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